「……魔族って悪趣味よね」
笑うゼロスに呆れたように告げれば、彼は楽しそうに言う。
「まぁ、否定はしませ……」
「妖影縛!」
「っ!」
その途中。
印を描いて放った術は『影縛り』と同じ効果をもたらす、動きを封じるもの。
当たらないのなら動きを止めていてもらおうという、至極単純な思考のもと発動したそれは、私の影を触手の様に伸ばし、ゼロスの影を貫くべく襲い掛かる。
が、それを空間移動で難なく避けられ、尚且つ後ろを取られてしまった。
「やれやれ、人の話は最後まで聞けと教わりませんでしたか?」
「聞く価値の無い話は聞く耳持つなと教わりました」
「なるほど。それは立派な教えですねぇ」
後ろに居るゼロスにそんな受け答えをしながら術を唱え、振り向きざまに『それ』を発動させる。
「破砕鞭!」
手の平から伸びる光の鞭が、私の動きに合わせて横に線を描く。
射程距離が短いため、ゼロスが後ろに飛び退っただけで届かなくなってしまうが、今はこれでいい。
この術を使ったのはゼロスと距離を取るためと、もう一つ。
彼が放つ魔力球を迎え撃つためである。
「っ!」
離れざまに放たれた4つの魔力球が、私の周りを飛び回る。
私は光の鞭をコントロールし、それらを打ち払った。
打ちっぱなしの術と違い、自分の意思で動かす事のできるこの術は、バシュ、バシュっと2つの魔力球が無へと帰す。
が、3つ目を裁こうとしたところで、スルリと避けられ、コチラへ向かって光の球が飛び来た。
鞭での対応は無理だと瞬時に判断し、杖での対応に切り替える。
それと同時に次の術を唱え始め、残り2つを弾き返したところでそれは完成した。
「雷花滅撃吼!」
無数の小さな光の粒が、ブリザードの様に相手に向かって吹きつける術で、精神と肉体の両方にダメージを与えるものである。
そして余程の体術が無い限り、かわすのは不可能。
辺り一帯が光の粒に覆われ、さしものゼロスもこれにはちょっとくらい苦戦するだろう。
そう思った私が甘かった。
ゼロスは自分に直撃するものだけを、杖の一振りで、ふいっと掻き消してしまったのだ。
「この非常識魔族っ!」
そして、彼の横をすり抜けた光の多くは後ろにいた冥王へと向かうが、やはりコチラも消滅の道をたどっていた。
「言ったでしょう。馬鹿にしてもらっては困りますと」
そう言ったゼロスの周りには既に8つの魔力の光が生まれている。
って、さっきから倍々で増えてるってことは、これを防げば次は……。
けれど未来の事を危惧している暇はない。
時間差をつけて襲い来た光球を薙ぎ払い、叩き落とし───。
ぴしっ。
「っ!?」
3つ目を無に帰したところで、不吉な音が耳に届く。
まずい。
杖が……!
先程2つ同時に受け止めた時に感じた違和感。
軋んだような気がしたのは、勘違いでも気のせいでも無かったようだ。
見ればある程度の強度を保つはずのそれには、小さな亀裂が走っている。
しかしそれをどうにかする前に、魔力球が目の前に迫り来ている。
私は反射的に光球を杖で受け止め、
ぴしぴしっ……。
小さなはずのその音は、けれども私の耳に、破滅の音として確実に届けられた。
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