このままだと、いずれ杖が折れるのは目に見えている。
かと言って修復魔法を唱えている暇は無い。
間を置かず襲い来た5つ目の攻撃。
簡単な風の結界程度では破られてしまうし……。
私はどうする事も出来ないまま、魔力球を杖で消し去った。
みしっ、ぴききッ!
ヒビが広がる音。
ゼロスはその事に気づいていない。
私は一か八か術を唱え始め、それと同時に6つ目が来た。
杖を真横に構え、押される形でそれを受け止める。
「……っ!」
みしみしっと遠慮無くヒビが広がり、そこに7つ目が飛び来て───。
杖の許容量は、そこまでだったらしい。
持ちこたえたのは一瞬。
ぱきん!
と乾いた音を立て杖が二つに折れる。
その向こうで目を見開くゼロスが見えた。
魔力の光は勢いをほとんど殺さず、こちら目掛けて襲い来る。
しかし、杖が持ちこたえたその一瞬、術は完成していた。
「虚霊障界!」
術者の周りに魔力を遮断する結界を張るもので、風の結界に比べると格段に強度を保つ術。
魔力球は結界に当たり、あっさりと消滅の道をたどった。
……何とか防げたか……。
安堵したのも束の間。
全て防いだと思い油断した私の前に、8つ目の光球が私の目の前に現れた。
「ひゃあっ!!」
流石に目の前での出現は驚きを隠せない。
おそらくは結界が切れるのを待っていたのだろう『それ』を、私は慌ててその場にしゃがみ込み、やり過ごした。
呪文が途切れて結界が消えてしまったが、魔力球も後ろの床に当たって消滅してくれたようだ。
ホッと胸をなでおろし、それから私は手をこっそり背に回しながらゼロスを睨みつける。
「危ないじゃないですか!」
「そりゃまぁ、僕達は一応敵対関係ですからねぇ」
「か弱い乙女に酷い事すると嫌われます、よっ!」
言葉と同時に、隠し持っていたナイフを投げ放つ。
風を纏わせたそれらは、あるいはゼロスや冥王に、あるいは全く関係ない床へと飛び散った。
しかしゼロスは慌てる事無く空間を渡り、
「…………か弱い?」
眉を顰め、私の手を捻り上げる。
「ぁっ」
続けて投げようと手にしていたナイフが滑り落ちた。
カランカランと渇いた音を立てたそれは私達の足元に散らばり、ゼロスはやれやれと溜め息を吐く。
「どこの世界にナイフを持ち歩く、か弱い乙女がいるんです?」
「………………」
まさかナイフが効くとは思っていなかったが、牽制ぐらい出来るんじゃないかと思った私が甘かった。
どうしよう。
どうしよう。
どうする?
今なお形勢逆転の機会を狙って、あれこれ作戦を立ててみるが、どれもこれも現実的では無いものばかり。
そうこう思考を巡らせる内に、彼は私から手を離し、おもむろに落ちたナイフの内の一本を拾った。
その流れるような動作を、私は黙って見てめる。
次にゼロスがどう動くのか。
それを見極められれば最悪の事態は防げる……かもしれない。
そんな私からの視線を受けながら、ゼロスはナイフを確かめるようにして見ると、それをポイッと投げ捨てた。
───そして。
「…………さて」
「………………」
「死と破滅、ユウさんはどちらを選びます?」
笑顔でそう言ったゼロスの瞳は、紫の光を宿し揺れていた。
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