───死か破滅か。
そんなもの、考えるまでもない。
私は微笑み、
「冥王崩魔陣!」
答えの代わりに解き放ったそれは、冥王フィブリゾの力を借りた術。
これには流石のゼロスも慌てた素振りを見せた。
「っ!!」
ゼロスを中心とし、逆五芒星の頂点に闇の柱が立ち上り、黒い雷が彼を包み込む。
が、しかし。
やはり彼は一筋縄ではいかなかった。
彼は杖を横薙ぎに振るい、一瞬にしてそれを消し去ってしまったのだ。
一方、それまで高見の見物を決め込んでいた冥王が、おかしそうに笑って言う。
「くくっ、何の冗談だい? ぼくの力を使った術を使うなんて」
それに対し、私は平然と答えた。
「別に……深い意味なんて無いですよ。魔王の腹心の中でも飛び抜けて力のある冥王の術なら、ゼロスにも通用するかと思ったんですけど……」
言って私は肩を竦め、
「格下魔族にいとも簡単に防がれるなんて……大した事ないんですね、この術」
『───っ!?』
それを聞き、冥王の眉がピクリと跳ね上がり、ゼロスの顔が引きつった。
今私が言ったこと。
それは取りも直さず、冥王の力が大した事は無いと言ったのと同じだった。
だが無論、それは真実ではない。
下級や中級の魔族には抜群に威力を発揮するこの術。
レッサーデーモンやブラスデーモンなら一発で仕留めている。
これはゼロスだからこそ出来た事。
きっと彼なら魔王の力を借りた竜破斬辺りも切って捨てるだろう。
そう。
これは挑発に他ならない。
力で勝てないなら精神攻撃を仕掛けるしかない。
人間である私に侮辱され、魔族の彼等がどうでるか。
「はっはっはっはっ! 人間ごときが、ぼくの本当の力を引き出せるとでも!?」
「思ってませんよ、そんな事。ただ、力の一端は所詮一端でしかないんだなって事で」
「………………」
冥王は黙り、ゼロスは非難めいた視線をこちらに向けている。
私はそれに気づかぬフリを貫き、マントの下で印を描く。
「ふん、少しは楽しめるかと期待したんだけど。全然ダメだよ、お姉ちゃん。重破斬を使う様子も無いし」
冥王はゼロスを見遣ると、冷ややかに言い放った。
「お前ともあろう者が、こんな人間にいつまで時間を割くつもりだい? ゼロス、ぼくはこの人間を殺せと言ったはずだよ」
「……っ」
ゼロスが小さく息を呑む。
……何と言うか、思いっきり裏目に出たかも。
冥王が怒って油断した所を崩霊裂で狙おうと思っていたのだが……。
「ゼロス、頭の良いお前なら何度も同じ事を言わなくても分かるよね」
「………………」
───あの人間を殺せ。
無言の命令に、ゼロスは黒い魔力の槍を解き放つ。
だが、動揺したのか。
風を裂いて飛び来る一条の槍は狙いが甘い。
私は余裕で大きく後ろに飛び───。
カツンッ!
着地地点にあった折れた杖が足を滑らせる。
───……しまった!
思った時にはもう遅い。
まるで私の周りだけ時の流れが遅くなったかのような感覚。
そして、
ざんっ!
ゼロスが放った槍は、私の腹部を貫いた。
あとがき
誓った約束。
知られざる、二人の約束。
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