「───説明は以上だよ」
「…………」
先程までいつもの冷静さを失っていたゼロスは、私の説明を聞き、大分落ち着きを取り戻したようだった。
しかし、今度は別の事実が彼から言葉を失わせる。
私がここに居る意味。
ひいてはこの時代に来た意味を知り、ゼロスは信じられないと言う様な表情で私を直視している。
まぁ、当然と言えば当然だろう。
たった一人のワガママで、時空間を渡って来ただなんて。
お酒の席の冗談にしても、もう少しうまく話をつくれと言われるレベルである。
しかし、残念ながらこれは冗談でも嘘でも無い。
故に───。
「時空間を渡って……未来から来たと言うのは本当なんですか?」
「……意味の無い嘘をついてゼロスを困らせる趣味は無いよ」
「……そう……ですか……」
複雑そうな顔をしながら口を開くゼロスに、私は肯定の言葉を紡いだ。
対してゼロスはポツリ……と呟き、そして少しだけ。
ほんの少しだけ寂しそうに。
いつもの笑みを歪める。
「でも、それで納得しました」
「ん?」
「度々ユウさんが持ち歩いていないはずの物を、どこからともなく取り出していたのは、空間移動の応用だったんですね」
「…………うん」
「………………」
「他に何か質問はある?」
「……いえ」
私の問い掛けに、うつ向き気味に首を横に振る彼。
それを見て苦笑しつつも、私は違う所に意識をやった。
コレからの事を考えると、今はリナさん達が来るのを待った方が良いだろう。
いつの時代も勝つのは数の暴力と豪語していたリナさんではないが、相手はあの魔王の腹心、冥王フィブリゾである。
戦力は多いに越したことは無い。
その為には入口付近で待って、合流した方が良いだろう。
そう思考を巡らせ終えた私はゼロスに、行こうか、と声を掛け───その次の瞬間。
突然ゼロスに腕を掴まれ、彼の胸へと引き寄せられていた。
「ゼロ……」
しかし。
そんな私の呼びかけは、轟音によって掻き消される。
どぐぉおおおおおぉぉん!!
目の前に紅い火柱がほとばしる。
この力は……竜破斬?
それにしては威力が桁違いだが……。
ゼロスが魔力障壁で護ってくれたお陰で、熱すら感じ無かったけれど、そうでなかったらヤケド程度では済まなかっただろう。
「今のは……」
「どうやらリナさん達が冥王様とやりあってるようですね」
「ぇっ!? リナさん達もう来てるの?」
「……はい」
一体いつの間に。
…………まぁ、考えられるのはおそらく、空間移動した時にでも入れ違いになったのだろうけど。
でもそうか。
リナさん達が来てると分かった以上、知らん顔は出来ない。
「ゼロス」
「ダメです」
……………………。
「…………私まだ何も言ってないんだけど?」
「聞かなくてもわかりますよ。リナさん達の所へ行くから離せと言うのでしょう?」
「おぉ! ピンポンピンポン大正解! 正解者のゼロス君には素敵な景品をプレゼン……」
「いりませんよ、景品なんて」
言葉の途中でバッサリと切られ、私は苦笑しながら彼を見上げた。
対して難しい表情をしているゼロス。
彼は腕に力を込めながら、言いづらそうに言葉を紡ぐ。
「僕が欲しいのはそんな物じゃありません。僕が欲しいのは……」
「…………欲しいのは?」
言葉の先を促すように聞き返せば、より強く抱きしめられ、彼の顔が見えなくなった。
それによりゼロスの真意も窺えなくなる。
けれど何となく彼が悲しんでいるような気がして、私は彼の背に手を回し、ぽんぽんと宥めるように叩いた。
そして「大丈夫だよ」と声を掛ける。
すると頭の上で、くすっと小さく笑った気配がした。
「……ゼロス?」
「ユウさんには励まされてばかりですね」
「……ゼロスは心配してばかりだね」
「誰の所為ですか、誰の」
先程よりも和んだ空気に、私も思わず微笑む。
そしてハッキリと彼に告げた。
「私はゼロスが好きだよ」
「っ!?」
「そしてリナさんも、ガウリイさんも。アメリアさんやゼルガディスさんも好き」
「………………」
「だから皆に傷ついて欲しくない。だから皆と一緒に居たい」
好きだから。
「……だから、私は行くの」
そう笑えば、ゼロスは長く深い溜め息を吐き、そっと私を離してくれた。
ただ一言、
「……仕方ありませんねぇ」
と物凄く苦い顔をしながら。
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