翔封界が使えない私は、少しでも急ぐ為に地上に向け真っ逆さまに落ちていた。
耳元で風が唸りを上げ、あっという間に巨大クリスタルの横を通り過ぎ……。
地上にぶつかるその間際。
唱えていた浮遊を発動させ、私はふわりと地へと降り立つ。
そこには。
そこには冥王と───。
倒れたアメリアさん達の姿があった。
ゼルガディスさん、シルフィールさん。
ザングルスさんにマルチナさん。
皆地面に倒れ伏し、ピクリとも動かない。
遅かった……。
間に合わなかった。
その中で唯一、リナさんだけが床に座り込んでいて、
「リナさんっ!?」
後悔するのは後回しにし、私は呆然としている彼女に駆け寄り、顔を覗き込む。
そこに、いつもの。
真っ直ぐに前を見つめる、リナさんの紅き瞳は無かった。
「あれ、お姉ちゃん生きてたんだ? あれだけの傷を受けて、あれだけの術を使ってまだ生きてるなんて、やっぱりただの人間じゃないみたいだね」
楽しそうに笑う冥王の戯言は無視し、私はリナさんの肩を揺さ振る。
「リナさん! リナさんしっかりして下さい!」
けれど。
リナさんは一点を見詰めたまま動かない。
「まったく、人間てのは呆気ないよね。僕がちょっと遊んだだけで壊れ……」
「黙りなさいっ!」
振り向きもせず声を荒げた私に、一瞬沈黙する冥王。
そして「おー恐い」と馬鹿にしたように呟いた。
しかし今はそれに構っている暇は無い。
「リナさんっ! しっかりして下さいリナさんっ!」
呼びかけに応えない彼女。
このままでは……。
私は小さく息を吐くと、ある決意をし、そしてゆっくりと。
ゆっくりと立ち上がった。
それからある物を取り出し、それを高々と振り上げ───
すぱあぁぁぁああんっ!
思いっきりナナメ35度に振り下ろされたスリッパが、リナさんの頭を直撃し、辺りに景気の良い音を響かせる。
「……な……! 何すんのよっ!? ユウ!」
それにより正気に戻ったリナさんが、怒りに任せて食ってかかってきた。
そのことに私はスリッパを手にしたまま口の端を持ち上げ、
「壊れたものは叩いて直す。常識だって言ったでしょう?」
そう告げれば、一瞬、リナさんはキョトンとした表情を見せる。
しかし、それも束の間。
次の瞬間には、真っ直ぐ前を見据える、意志ある瞳がそこにあった。
「…………そうね……今回はあんたが正しかったみたいね、ユウ」
差し出した手を掴み、立ち上がったリナさんが不敵に笑う。
たったそれだけの事なのに。
『もう大丈夫』
そう思わせるだけの何かがリナさんにはある。
「って言うか、その格好どーしたのよっ!?」
「ぇ……? あぁ、ちょっと」
「ちょっとって血まみれじゃないっ!!」
リナさんが見て驚くのも無理はない。
すっかり忘れていたが、先程の怪我で私の服は赤黒く染まっていたのだ。
かと言って、今は修復魔法を使う魔力も惜しい。
「大丈夫ですよ。怪我は治りましたから」
「でも……っ!!」
「それより、今は……」
「って、そうだったわね……」
くるりと身体を反転させ、私達はクリスタルの高台にいる冥王と再度、相まみえた。
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