───世界を見て回る意味。
意味……ねぇ?
今回の旅に本当にそんなものがあったのだろうか?
でもロードの態度を見てるとどうにもコチラが本題で、レシピがおまけの様に感じてしまう。
かと言ってそんな事をさせた彼女の真意なんてさっぱり分からないのだけど。
……ただの気まぐれだと思っていたんだけどな。
そんな事を思っていると、前から「なぁに難しい顔してんのよ」と高めの声がした。
聞き覚えのある声に視線を上げれば、栗色の髪をした小柄な魔道士がテーブルを挟んで真向いに座っている。
「ぇ……?」
突然の事に思考がついて行かない。
けれどそんな事はお構いなしに、少女は話し続ける。
「何悩んでんだか知らないけどさ、あたしで良ければ話くらい聞いてあげるわよ?」
……………………。
「なによ? あたしじゃ不満だって―の?」
「いえ……そういう訳ではないんですけど」
辺りに視線を巡らせれば、ここは私の部屋で間違い無い。
目の前のテーブルには今日中に仕上げなければならない書類や、もう何年も使っている茶器があるし、本棚には私のお気に入りのものが並んでいる。
窓際にある花に水を上げなきゃなと思いながら更に周りを見ると、明日着る為の衣装が自己主張しながら壁に掛かっていた。
もし目の前の香茶を溢したら式典に出なくて済むだろうか、なんて馬鹿な事を考えつつ、怒られた挙句に修復魔法で元通りにされて結局は怒られ損なだけだと思いとどまる。
あぁ、そう言えばそろそろ枕横の本も片付けないと雪崩を起こしそうだ。
そんな事を思いながらもう一度目の前の人物を見る。
そこには見間違い用も無く、しばしの間共に旅をし、魔竜王や冥王などというとんでも魔族と出会う事になった一因である、天災……いや、天才魔道士さんの姿。
何故……。
そう思うものの、居るはずのない人物に戸惑って、いつまでも黙って居る訳にはいかない。
もし彼女の機嫌を損ねようものなら、いつ何時攻撃呪文が炸裂するか分かったものでは無いのだから。
私は目の前の彼女を不機嫌にさせてはいけないという防衛本能に従い、先程からの疑問を投げかける。
「リナさんは世界を見て回る意味って何だと思います?」
そう尋ねると、彼女───リナさんは不思議そうな表情を浮かべた。
「世界を見て回る意味?」
「理由や意義でも良いんですけど」
「理由って言ってもねぇ……あたしの場合、そもそもは姉ちゃんに世界を見て来いって言われて旅に出たんだけど……」
そこまで言うとリナさんは一旦言葉を切り、今までの事を思い出すかのように天井を仰ぎながら更に続ける。
「まぁ、姉ちゃんがどんな意図でそんな事を言ったかは分かんないけど、色んな経験が出来たし、きっとこれからも色んな出来事が飛び込んできて、それを何だかんだ言いながら乗り越えて行くんだろーなぁなんて思う」
……リナさんの場合半分以上が自分から飛び込んでいるような気もするけど。
「何か言った?」
「いえ、何も」
じとんとした目から逃れるように私はきっぱりと言い切る。
こういうのは言い切ったもん勝ちである。
まぁ、これはリナさんから学んだことだけど。
そんな事を考えていたら、彼女はふと思い出したかのように静かに言う。
「でもそうね。旅に出て一つだけはっきりしてる事があるわ」
「何ですか?」
「旅に出て良かったって事」
そう言ったリナさんの表情はどこか誇らしそうだった。
「色んな事があって……それこそ世界の運命なんてものに関わって死にそうな目にもあったけど、それでも旅を止めようと思った事はないし」
「………………」
「ユウは?」
「はい?」
「旅に出てどう思った?」
「私は……」
───私は……。
ALICE+