色々な想いが過り思考がまとまらない。
正直面倒だと思っていた。
それまで一人旅をした事なんてなかったし、多少不自由な生活ではあるけれど、慣れてしまえばどうという事は無いし。
与えられた仕事をこなして、たまにロードの無茶な要望に応えたり、ディルのスパルタ指導から逃げたり、ユーリの惜しみない愛情に辟易したり。
何気なく時が過ぎて。
日々が過ぎて。
なのに急にレシピを探してこいだなんて。
しかも過去への時空間移動とか……。
「何考えてるんだか……」
「ん? 難しい事は考えてないぞ?」
………………は?
いつの間にか下がっていた視線を慌てて戻す。
私の呟きに答えたのは明らかに男の人のもの。
そして私の目の前に座っているのは───。
「どうかしたか、ユウ?」
「……どうかしたって」
「もしかして、おれの顔を忘れちまったのか?」
そんなまさか。
貴方じゃあるまいし。
そう内心突っ込みつつも、一方ではかなり混乱していた。
……さっきまでその場にはリナさんが居たはずなのに。
けれど今は彼女の姿は部屋中どこにも見当たらない。
ましてや部屋を出て行ったふうでもない。
これではまるで『神隠し』───。
その単語が頭を過り、一瞬ロードの仕業かとも勘ぐったりしてみたが、彼女がこんな事をするメリットが見当たらない。
でも目の前に居るのはどう見ても私の知る人物の姿。
その事実を確かめるように、私はその爽やかな笑顔が眩しい金髪の青年の名を呼んだ。
「……ガウ、リイさん?」
「おう、どうした?」
「どうしたって……聞きたいのはコチラですよ」
何でも無い事の様に明るく返事をする彼に呆れ、小さく息を吐く。
でもまぁ……。
「お元気そうで良かったです」
「そっか? ユウも普段通りで安心した」
そう言うとガウリイさんは人好きのする笑顔で続ける。
「急に居なくなるもんだから気になってたんだ」
「……すみません」
「謝る事じゃないさ、事情があったんだろうしな」
「……ありがとうございます」
普段はとぼけた言動が目立つけど、ちゃんと見るべきところは見てくれる彼に笑みを返す。
流石は旅仲間の年長者と言ったところだろうか。
その観察力は今も発揮されていたようで、「ところで何か悩んでたみたいだが、おれで良ければ力になるぞ?」と、気を使ってくれる。
「あぁ、大した事では無いのですが……」
きっと私の気にし過ぎだ。
どうせ彼女の思惑なんて考えたところで大した理由でも無いのだろう。
暇つぶし、面白そうだから、腹いせ。
そう割り切ろうとするものの、やはり釈然としない。
いっその事ハッキリ言ってくれれば良かったのに。
そう思いつつも、折角だからとガウリイさんにも旅の理由を聞いてみる。
「ガウリイさんは世界を見て回る意味って何だと思います?」
「うん?」
「……えーと簡単に言ってしまえば旅をする理由です」
「理由かぁ……まぁ、おれはリナの保護者だからな」
「……あぁ、そう言えばそうでしたね」
基本的にはリナさんが主導権を持っていたのでそんな風には見えない事も多々あったりしたのだが……。
「でもそれだとリナが旅を止めたら、おれも止めるって事になっちまうな」
「…………」
「あー、どうしてって聞かれると困るもんだな……」
そう言ってからガウリイさんは、うーんと首を捻りながら考え始めてしまった。
そんなに悩ますつもりではなかったのだが……。
何だか真剣に考えてくれている彼に申し訳なくなり、声を掛けようとした瞬間。
ガウリイさんは何かに思い至ったのか「あ!」と嬉しそうな顔をしてから、とっても良い笑顔で言った。
「美味いもんを食うためだな!」
「…………あぁ」
そう言えば、リナさんもガウリイさんも食べる事には命を懸けている節があったな……。
ドラゴン料理の時とか……。
「リナと居ると美味いもんに有りつけるんだよなぁ」
「リナさんはグルメマップですか……」
そして結局はリナさんなんですね。
「まあ、あいつ色んな奴に狙われてるし、それ以前に一人にしといたら何やらかすか分かったもんじゃないしってのもあるな」
「リナさんってしっかりしているようで危なっかしい事しますしね」
「…………」
「何故そこで無言になるのでしょう?」
「いや、お前さんも十分危なっかしかったからなぁ……」
「そんな事は」
「あるぞ」
…………。
何故だろう、ガウリイさんにきっぱり言われると反論してはいけない様な気になるのは。
「ま……まぁ、取りあえず今はリナさんが旅を続ける限り、彼女の保護者として旅を続けると」
「だな」
「良いですね、そういう関係も」
「言っておくが、おれはお前さんの保護者でもあるつもりだぞ?」
「え?」
「まぁ、自称だがな」
言ってポリポリと頬を掻きながら苦笑するガウリイさん。
人が良いとは思っていたけれど、突然旅に加わった私の事もそんな風に思っていてくれたなんて。
どちらかと言うとリナさんは『保護者』と言うものにあまり良い感情は持ち合わせていないようだったけれど、私はそのことが嬉しくて、無意識のうちに笑みが浮かんでいた。
「ふふ、じゃあまた旅をする機会があれば是非同行をお願いしますね、保護者さん」
「おう!」
また。
いつか。
そんな日が来る事を夢見て───。
私は彼にそんな約束を申し出ていた。
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