ふと目を開けると、そこには間近に迫った見知った顔。
「お、やっと起きたか眠り姫」
「………………」
目が合うと、その人物はニッと笑って見せた。
視界に入る鮮やかな赤髪が寝起きの目に痛い。
「まったく、相変わらずお前は寝てばかりだな」
「……うるさい。誰の所為だと……」
人の眠りを邪魔しておいて随分な言い草だ。
そんな事を思いながら鈍い思考のまま眠い目を擦り、ゆっくりとベッドから身を起こすと、私は不機嫌を隠すことなく彼を見上げた。
そこには尊大な笑みが浮かんでおり、私の不機嫌に更に輪を掛ける。
歳は25。
名はクレハドール=デュ=ソレイユ=リヴラ。
通称クレハ。
先日、この国の王になりそこなった男。
とは言っても明日にはちゃんと王になるのだけれど。
…………たぶん。
「……用が無いなら寝たいんだけど」
「久しぶりに会ったんだから、そこは起きてろよ」
「一週間寝込んでた人間に言われたくない」
「おいおい、随分ご機嫌斜めだな」
言って彼はドカッと隣に腰を落とし、私の頭をくしゃりと撫でる。
空気は読めないし態度は尊大だが、その性根は以外にも優しい。
クールを装っているのに、突っ込まれたり冷やかされたりしやすい辺りは自称残酷な魔剣士さんに似ているかもしれない。
まぁ、彼と違って抜けてるのが玉に傷と言うか、本人曰くそれが魅力の内の一つらしいが。
「で、用件は?」
「あ? おう、そうだそうだ! お前、ふざけるなとは上等じゃねーか!」
未だ私の頭に置いてあった手でガシガシと揺さぶられ、思考まで掻き回される。
一瞬何の事か分からなかった───が、ある事に思い至り、私は素直に驚いた。
「あの使いの人、ちゃんと伝えたんだ」
「様子がおかしいから聞き出した」
「……クレハにバレる程の正直者って……」
「何かスッゲー引っかかるが……『体調を崩されたとの事で、大変心配しております。こちらの事は気にせず、どうかご自身の事を一番に考えて下さい』なんて明らかにおかしいだろうが」
それはまた……これ以上無い程に律儀に模範解答をしたものである。
「お前なら『馬鹿は風邪ひかないって言うのに、何してるの』くらい言うだろ、絶対! 呆れた顔しながら!」
「分かってるなら風邪なんてひかないでよ」
「うるせぇ、俺だって好きでひいた訳じゃねーよ」
「馬鹿は風邪ひかないって言うのに」
「だから馬鹿って言うな、馬鹿って!」
「あーもー、分かったから耳元で騒がないで。うるさい」
その騒がしい口から逃れるように、頭上にある顔をぐいっと手で遠ざける。
「…………お前、なんかいつにもまして酷くねぇ?」
「何が?」
「容赦が無いと言うか、愛が無いと言うか」
そうだろうか?
相手をしてあげているだけ感謝してほしいくらいだが。
そんな事を思いつつ、私は文句を言いたげなクレハから態と顔をそむけて言う。
「人の眠りを妨げる人間に愛想を振りまくほど、お人好しじゃないの」
「あー、はいはい。俺が悪いってんだな。悪かったな」
そう言って彼はわしゃわしゃと私の頭を再度撫でる。
それだけで、まぁ良いかと言う気持ちにさせられるのはクレハの人徳なのだろか。
とは言っても迷惑である事にはかわりないのだが……。
未だ頭を掻きまわすクレハの手を振り払おうと視線を動かし───そこで初めてテーブルの上に置いてある小箱に気が付いた。
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