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でも……だ。

それならどうして彼は夢の一部として現れたのだろうか。

私が勘違いしている事など彼にはお見通しだっただろうに。

これは現実だと、一言言ってくれれば良かったのに。

そんなモヤモヤした思考を巡らせていると、それまで指輪をためつすがめつ見ていたクレハが、ふと思い出したように言葉を溢した。



「そう言えば昔も居たよな」

「?」

「お前に指輪を贈った変な奴」

「ぇ?」



……そんな記憶は無いが……。

というかその言い方は失礼じゃないだろうか。

それだと私に指輪を贈る事が奇特みたいに聞こえるじゃないか。

そんな私の心情を察したのか、クレハは苦笑しながら続ける。



「覚えてないか? いつもニコニコした、おかっぱ髪で神官風の男」

「…………」



訂正しよう。

やはり私に指輪をくれるような存在は、奇特で変わり者であると。



「そいつ、ちっちゃいユウにデレデレでな。お前も随分そいつに懐いてて、いつもディルとユーリが躍起になって『滅べ、ロリコン魔族!』なんて言いながら追い払ってたもんだが」

「……は?」

「あぁ、そうそう。お前がそれを聞いて『ロリコンマゾ』って言った時には、そいつかなり凹んでたな」



………………。

容易に想像できるその姿に、何とも言えない気持ちになる。

そしてそれと同時に、頭を占めたのは『何故?』という二文字。

さっきの指輪もそうだけど、そんな記憶は全然ない。

覚えていない───……が。

かと言って、クレハが嘘を言っている様にも見えない。

第一そんな事をする動機が見当たらない。



「名前は何て言ったっけかなぁ……ゼル……いや、ゼオ……?」



となると考えられるものは限られてくる。

外的要因か精神的な物かは分からないが私が記憶を一部喪失しているのか。

それとも───誰かに消されたのか───。

そう思った瞬間。

突如目の前が暗くなり、

『すみません』と謝る幻聴を聞いた。

誰かが私の目を塞ぎ、耳元で囁いた場面がフラッシュバックしたのだ。



───この声は───。



「……ゼロス」

「おう、そうだ! ゼロスだゼロス!」 



名前を思い出し嬉々としたクレハとは対照的に、様々な記憶が呼び起された私は、軽い眩暈に襲われた。

……そうだ。

そうだった。

私は彼を知っていた。

それも随分前から。

そして私は彼に記憶を消されたのだ。

何故そんな事をしたのか皆目見当もつかないが、以来彼が私の前に現れる事は無かった。

それについてディルやユーリも何も言ってなかったし、今の今まで不審に思う事すらなっかたのに。

思い返してみれば以前にもゼロスを懐かしいと感じた瞬間は確かにあった。

魔族らしからぬ、温かな眼差しと。

気遣うように頬へと触れる冷たい手。

覚えがある様な気はしたのに、何でその時に疑問に思わなかったのか。



「そう言えばあいつ最近見ないけど元気にしてんのか?」



そんな事を色々と思い馳せていると不意にクレハに尋ねられ、私の思考はそこで一旦ストップする。

そしてその質問に沸々と込み上げてきたのは、間違えようもなく怒りの感情だった。



「…………さぁ?」

「お前も会ってないのか」

「うん、まぁ……」



過去の彼には会っていたけど。

そんな思いは伏せ、私はクレハに笑顔を向け言う。



「そんな事よりさ」

「あ?」

「ちょっと肩を貸してくれない?」



そうお願いした私に不審そうにしながらも、クレハは「あぁ」とひとつ頷いた。

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