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森を抜けると一気に視界が開け、眼前に大きな湖が現れた。

風で波打つ湖面には月光による光の道が延び、その先に───1つの黒い影が佇んでいる。

輝く湖面と相まって神秘的ともすら思えるその出で立ちは、私から簡単に声と思考力を奪い去って……。







どのくらいそうしていただろうか。

ちゃぷんと跳ねる水音にハッとし、私はその光景に心を奪われていた事に気づく。

その事実が何となく気に食わなくて、私はひとつ息を吐きだした。

するとその気配に気づいたのか。

影はコチラを振り返り、私の姿を見て取ると「こんばんは」と挨拶を口にする。

そして続けざまに「お久しぶりですね」なんて、何事も無いかのように言ってくるものだから、私は知らず知らずの内にジト目になってしまっていた。



「……昼間来てたくせに何を言うかな、このロリコンマゾは」

「…………」



先程までの幻想的な光景は一転、寒々しい空気に包まれる。

まぁ、そうしたのは他ならぬ私の言動の所為ではあるのだけど。

分かっていながらも、更に私は続ける。



「こんな置き土産して、自分は直ぐ帰っちゃうだなんて随分とつれないんじゃない?」



人差し指と親指で指輪を摘まみ、目の前の影に見せつけるように持ち上げる。

それを見た彼は苦笑を浮かべ、ポリポリと頬を掻きながら言い訳をし始めた。



「いやぁ、それはアレですよ。昼間も言った通りユウさんがお疲れのようでしたから……」

「過去人の眠りを散々邪魔していたくせに?」

「……うっ」



我ながら意地の悪い事を言ったとは思う。

が、久しぶりに会ったにもかかわらず帰ってしまったという事がどうにも納得がいかなかった。

ゼロスなら構い倒してきそうなものなのに。

まぁ、私を気遣ってくれたのもまるきり嘘と言う訳ではないんだろうけど。



「で? 本当はどうして直ぐ帰ったの?」



そう尋ねれば、彼は笑みの浮かんだ口許に人差し指を当てるお決まりのポーズを取る。



「それは……ひみ」

「秘密なんて言ったらこの指輪湖に捨てるわよ」

「………………」



言い終わるよりも先に腕を伸ばし真面目な顔で宣言すると、彼はそのままピシっと音を立てて固まった。

逆光の中、静止する姿はなんとも間抜けである。

しばし沈黙が二人の間を支配し、ホーホーと鳴く梟の声が辺りの静寂を埋める。

そして、どれ程の時間が経っただろうか。

困ったような笑みを浮かべたゼロスはコチラに近づき、指輪を持つ私の手を取ると、



「もう一度ユウさんとゆっくりお話ししたかったんですよ」



そう寂しそうに口にした。

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