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「ひとの不幸を、絶望を。好み、増長し、糧に生きる存在です」



魔族だから───。



「だから……これで最後です」



何が、とは言わなかった。

けれど、話の流れからもう会う気が無い事は明白で。

頭に柔らかく触れた唇の感触に、私は服を握っていた手に力を込めた。

それは逃がさないと言う意味合いも兼ねていたんだと思う。

そんな事をしても、精神生命体の彼には何の効力も無いのだけれど。

自分でもどうしてこんな理に適わない事をしているのか分からない。

それでも、何かをせずには……言わずにはいられなかった。



「そんなの、今さらでしょ?」



ゼロスが魔族だという事も。

人の不幸を糧にする事も。

知っているし、分かっている。

分かっていて尚───。



「……何故僕があなたの記憶を消したんだと思います?」

「……仕事で不都合でもあったんじゃないの?」

「いえ、僕にとってその方が有益だと思ったんです。記憶を消す事によって、貴女との関係性が変わるかもしれないと」

「……関係性?」

「えぇ、ユウさんが過去に行ったのは『あの方』の意向なので変えられないかもしれませんが、記憶が無い事で出会いやその後の展開に違いが出て来るのではないかと。もしかしたら出会いそのものが無くなるかもしれない、そう期待したのですが……」

「期待……ね」

「えぇ、完全に僕の我儘です。貴女の都合は一切無視した」



そうまでして私との関係を変えたかったのかと思うと、正直複雑な気持ちだ。

…………でも。

本当にゼロスは私との出会いを無かった事にしたかったのだろうか?

答えはおそらく否。

有益だなんだと言ってはいるが、それは先程までのやり取りから窺い知れる。

じゃあ、何でゼロスはそんな事を言い出したのか。

本人の意思ではないのなら、それは───。



「獣王に何か言われたの?」

「……いえ、あの方は僕のプライベートに関して放任ですから」

「じゃあ私の周りの人?」



そう尋ねればゼロスは一瞬口ごもり、そして。



「……ユウさんを心配されているんですよ」



そう愁いを帯びた声で述べる。



「ゼロスは……それでいいの?」

「えぇ」

「本当に?」

「……僕が幸せを望むのは貴女が最初で最後です」



その言葉に、私は顔を上げた。

そして真剣な眼差しとかち合う。

魔族に幸せを望まれる人間だなんて、過去未来に置いても稀であろう。

まぁ、ゼロス自身魔族の中でも稀有な存在なんだろうけど。

そんな事を思いながら私はそっと彼を押して、ゼロスから少しだけ距離を取った。

月の光を纏い、湖の前に佇む彼の姿は幻想的で、今にも消えてしまいそうだ。

その彼に向かって、私はコクンと頷く。



「分かった」

「…………」



ゼロスが金輪際私と関わる気が無い事も。

それは私を想っての事だという事も。

理解した。

───でも。

だけど……納得はできないから。



「ひとつだけ我儘を聞いてくれる?」



そう求める私に、ゼロスは「良いですよ」と表情を緩める。

それを確認してから私はニッコリと笑みを浮かべ、ゼロスに断言した。

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