「確かにあの日、猫は見ましたけど……」
「そのニャンニャンにお前は何をした!?」
「何って……残り物の魚をあげました」
「そう! 折角わたしが猫じゃらしで茂みにおびき寄せてるところを、お前はエサでニャンニャンの気を引いたのだ! その後ニャンニャンはお前のあとをついて行き、わたしはニャンニャンと触れ合えなかった……」
「いや、そんなに触りたかったなら猫を追いかければ良かったじゃないですか」
「馬鹿者! 朝方の危ない時間に茂みから出れる訳ないだろう!」
危ない時間って……。
あ、そうか。
ヴァンパイアは太陽に弱いのか。
「それで恨みを晴らす為に復讐を?」
「うむ。この三日間ずっと隙をうかっていたのだが、遂にお前に『猫になる飴』を食べさせる事に成功したのだ」
なるほど。
見られていた気配はこのヴァンパイアのものだった訳か。
「ただ薬が不良品だったのか、はたまたお前の魔力が思った以上に強かったのか……どちらにせよお前は完璧な猫にはならず、猫耳と尻尾が生えた訳だ」
猫耳……?
その言葉に頭に手をやると、確かに尖った何かがあった。
おそらくヴァンパイアが言うように、そこには猫耳がついているのだろう。
なんて言うか、果てしなくどうでもいい薬を作ったものである。
「そのお陰で唯のニャンニャンとは違う、ラブリーでキュートなニャンニャンが見ることが出来たので結果オーライではあったがな!」
溜め息を吐く私を意にも介さず、ヴァンパイアはコチラに熱のこもった視線を寄越す。
そして、目があったその瞬間。
嫌な予感が背中を駆け抜ける。
それは決して気のせいではなく、
「さぁ! 可愛ゆきニャンニャンよ、わたしのものになれーっ!」
「うにゃーーーーーっ!?」
コチラに向かって飛び来る変態に、私は驚きの声を上げながら飛び退いた。
そして咄嗟に飛び付いたゼロスの背中にしがみつきながら、彼を盾代わりにする。
「おやおや……ユウさんが怯えているじゃないですか」
何か……楽しんでるように聞こえるのは気のせいだろうか……。
対して、私……と言うよりは『猫』に触れなかったヴァンパイアは、怒りの矛先をゼロスに向けた。
「むむっ! ニャンニャンがわたしを拒むはずが無いだろう! 邪魔をするな!」
「いや、あの……」
一体その自信はどこから沸いて来るのか。
私の額に一筋の汗が流れる。
「仮にそう見えたとしても、それはちょっとばかり恥ずかしがっているだけだ! 本当はニャンニャンもわたしに愛される事を望んでいるのだ! わたしには分かる! ニャンニャンを愛してやまないわたしには分かるのだっ!」
「…………そうなんですか?」
振り向き尋ねてくるゼロス。
笑っているはずのその顔は、けれど。
瞳が笑っていなかったりする。
私は弱冠引きつつ、ウンザリしながら答えた。
「そんなはずある訳ないじゃない」
「……ですよね♪」
一転して嬉しそうな表情を見せ、かと思うとゼロスはヴァンパイアに杖を向ける。
「申し訳ないとは思いませんが、ユウさんをお渡しすることは出来ません」
「独り占めする気かっ!?」
「……そう、出来れば良いんでしょうけど……」
………………?
あまりにも小さかったその呟きはよく聞き取れず、私はゼロスを見上げた。
しかし後ろにいる私には彼の表情を窺い知る事は出来なかった。
「どうしてもそこを退かぬと言うなら、わたしも黙っては無いぞ」
「へぇ? どうするおつもりで?」
「力ずくでニャンニャンを手に入れ……っ!?」
しかし───。
その台詞を最後まで言う事なく、ヴァンパイアは灰となる。
無論、誰がやったかは言うまでもない。
「ユウさんは渡さない。そう言ったはずです」
言ってゼロスは床に散らばる灰を一瞬にして消し去ると、コチラを振り向き笑顔を見せた。
この場にそぐわぬ笑みを───。
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