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その日、街へとたどり着いた私達は宿を探すべく、大通りを歩いていた。

せっかくだし良い宿に泊まりましょ、と言うリナさんの提案に反対する道理はもちろん無い。

誰だってふかふかのベッドでゆっくり休みたいと思うのが普通だろう。

というか、ぶっちゃけ早く寝たい。

ここ最近野宿が続いていたせいか熟睡できずにいたのだ。

そんな思考が安眠することで一杯な中、通りの向こうから駆けて来たのはマルチナさん。



「ゼロス様ぁ〜っ!」



と、片手を大きく振り、好意を寄せる声を響かせながら……。

けれど、私達がその事に気づき、彼女を目視したその途端。

マルチナさんは石に躓き、大事そうに抱えていた中身入りの瓶を手放した。



───あ。



と思った時には、もう遅い。

瓶の中に入っていたのは何かの粉末だったようで、空中へと舞ったそれは、ぼんやりしていた私の視界を容易に奪い去った。

それは私の隣に居たゼロスも同じだった様で、カランカランっと瓶が地面に落ちた瞬間、マルチナさんが慌てて彼へと謝罪しているのが聞こえてくる。



「ごめんなさい、ゼロス様! 目に入りませんでしたかっ?」

「あぁ、お気になさらずとも大丈夫です。それよりもユウさんが……」

「そんなおざなりな事を仰らずに! このマルチナに、良く見せて下さい!」

「えっと……」



運悪く瞳に粉末が入ってしまい、目が開けられない状態に陥ってしまった私には彼らのやり取りは見えないが、ゼロスが押され気味なのは何となくわかる。

会話の流れから察するに、ゼロスの瞳をマルチナさんが覗き込んでいるのだろうか。



「よ、良かったですわ。本当に大丈夫そうです」



ホッとしたように安堵の息を吐くマルチナさん。

その声は若干焦りを含んでいる様に聞こえるが、相手はあのゼロス。

きっと彼の眼差しを真正面から受け止めて、慌てたのだろう。

あの視線は色んな意味で心臓に悪いから。

そんな事を考えていると、マルチナさんは一呼吸置いてから、窺う様な声音で彼へと尋ねる。



「と、ところでゼロス様」

「はい?」

「その……何か変わったところはございませんか?」

「変わったところですか?」

「例えばわたくしを見てドキドキするとか……」

「いえ?」



何だか随分と変な質問である。

マルチナさんがゼロスに想いを寄せているのは周知の事実とはいえ、このタイミングで聞くようなものだろうか。

さらに、彼女は「変ねぇ? 効かなかったのかしら?」と小さく呟いている。

その声は私以外にも聞こえたようで、周りで事の次第を見ていたリナさんが、マルチナさんへと問い掛けた。



「……ちょっと、マルチナ。あんた一体ユウ達に何かけたのよ?」

「何って……ほーっほほほほっ! 甘いわね、リナ! わたくしが簡単に口を割るとでもっ!?」

「甘いとか甘くないの問題じゃなくて、ユウに害が及ぶと困るでしょーがっ!」

「僕になら良いんですか……」



いつもの高笑いと、するどいツッコミ、ぷらすアルファ。

私の脳裏には胸をそらすマルチナさんと、呆れながら怒るリナさん、そして額に汗するゼロスの姿が浮かんだ。



「…………」



というか……目の痛みが一向に引いてくれない。

これは水で洗い流した方が良いかな。

そう思っているところに、耳元で声がした。



「ユウさん、大丈夫ですか?」

「っ!? ……あぁ、うん。大丈夫……です」



心配してくれるゼロスだったが、まさかこんなに近くにいるとは思わず、びくりと肩が跳ね上がる。

それを誤魔化すように、私は目を擦ろうとした。

───が。



「あぁ、ダメですよ。擦っては。静かに瞬きしてください……出来ますか?」

「ぅ?」



腕を捕らえられ、行動を制限させられる。

仕方なく私は今出来る事をしようと、言われるまま、ゆっくりと瞬きをした。

すると、あれほど痛かった目から痛みが引いていった。

どうやら涙と一緒に粉末が流れ出たようだ。

私はお礼を言おうと顔を上げ───。



「まさか人に言えない様な変な薬品とかじゃないですよね?」

「変とは失礼ね! これはれっきとした惚れ薬! イモリの黒焼きの粉末よっ!」



聞こえてきたその言葉に。

私はゼロスの顔を直視したまま固まった。

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