「惚れ薬って……」
「ちょ、ユウ大丈夫っ!?」
リナさん達の視線が一気に集まるのを感じる。
あまりな展開に思わず固まってしまったが、マルチナさんの反応から見て、おそらく薬を掛けられて『一番初めに目にした相手を好きになる』といったたぐいの薬だったのだろう。
───が、今のところコレと言って変化は見受けられない。
私はゼロスから視線を外すと、大丈夫である事を示すようにニッコリと微笑んで見せた。
「えぇ、大丈夫です。ちょっと頭が重いような気はしますけど、寝不足な所為でしょうし」
「って、本当に大丈夫なの?」
「今のところ特におかしな感じは無いですよ……まぁ、ゼロスさんも大丈夫だったようですし、そんなに気に病む事も無いかなと」
「なんだ。じゃあパチもんだった訳ね」
ホッとしたような表情を見せるリナさん。
気のせいか、幾分かガッカリしている様にも見受けられるが……。
多分私の考え過ぎだろう。
そんな事を思っていると、アメリアさんが油に火種を放り投げてくれる。
「まぁ、所詮はマルチナさんが持ってた薬ですもんね」
「何ですってっ!? ゾアメルグスター様の呪いをバカにする気っ!?」
そうして始まった口論は、リナさんが攻撃呪文を放つまで収拾がつかなかった。
───それからしばし。
ようやく口論が収まり、宿を取った私達は思い思いの行動をとる事になった。
リナさんとアメリアさんは、お買いもの。
ガウリイさんはその荷物持ち。
ゼルガディスさんは異界黙示録の情報探し。
ちなみにマルチナさんは呪文で吹き飛ばされた後、「覚えてなさいよっ!」という言葉を残して何処かへ行ってしまった。
そして。
───ゼロスと私は宿でお留守番。
「ユウさん、大丈夫ですか?」
「ん、へーき」
今のところ惚れ薬の効果はなさそうだったが、万が一という事もある。
もしかしたら遅行性なのかもしれない。
そうなった時、外よりも室内の方が対処しやすいだろうと言う事で、私達は部屋に待機という事になった。
とは言っても、もともと休むつもりでいたので、その点での不満は全然無い。
むしろリナさん達に連れまわされずに済んで、良かったとすら思う。
ただ───。
「……ふぁ……」
ベッドの上にぺたんと座わっていた私はあくびを噛み殺し、眠たさから目を擦った。
それを見かねて、縁に腰掛けていたゼロスが顔を覗き込んでくる。
「ユウさん、寝ないんですか?」
「……ん、何だか勿体なくって」
「勿体ないって……」
言ってゼロスを見れば、困ったように笑っていた。
なんだか和むなぁ……。
こんな穏やかな時間は久しぶりだ。
このひと時を、寝て過ごしてしまうのには勿体なさ過ぎる。
そう思っての発言だったのに、ゼロスはあらぬ誤解をしたらしい。
「いくらユウさんが読書好きでも、そんな状態では頭に入らないんじゃないですか?」
「…………読書?」
「あれ、違いました? 僕はてっきり、本を読む時間が惜しいのかと」
言ってベッドサイドにあるテーブルの上に置かれた本を指さす。
確かに、暇があったら読もうと思って、先程荷物の整理をした際に置いておいた物だ。
「あー、うん。本も読みたいけど……」
「本当にユウさんは読書と眠る事がお好きですよね」
「…………」
「でも今は、眠った方が良いと思いますよ?」
「……うん」
「せっかくの綺麗な顔にクマが出来るのは、それこそ勿体ないです」
頬に片手を添えられ、そっと目の下を親指でなぞりながら言われれば、反論できるはずもない。
私は言葉も無く、こくんと小さく頷いた。
それを見たゼロスは微笑み、立ち上がる。
「では僕は、失礼しますね」
「ぇ?」
「睡眠の邪魔をしたらユウさんに怒られちゃいますし」
冗談ぽく、おどけてみせるゼロス。
それが何だか悲しくて。
寝る前に、戸締りだけは忘れちゃダメですよ?
そう言って扉へ向かう彼のマントを───私は思わず掴んでいた。
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