それから小一時間。
僕はユウさんと甘いひと時を過ごし───妙な喪失感を味わう事になった。
理由は既に分かっている。
最初は戸惑い、すっかり失念してしまっていたが、ユウさんのこの対応は惚れ薬によるものだ。
魔族である僕には効果が無かったが、ユウさんには作用してしまったのだろう。
「……ゼロス」
「はい?」
「好きよ」
しかし、そうと分かってしまえばこれ以上虚しい事も無い。
目の前に居るのは間違いなくユウさんなのに、どこか作り物めいて見えてしまう。
このまま薬の効果が続いたら───。
勿論そんな考えが全くない訳では無い。
彼女が僕に対してどんな反応を見せてくれるのか、興味と言う名の好奇心が疼く。
慈愛溢れるその瞳。
好意の言葉ですら躊躇いも無く紡ぎだす、唇。
温かなぬくもりを、惜しげもなく伝えるその身体。
それだけで心地よく、僕に安らぎを与えてくれる。
───けれど。
そのまま流されてしまうには、僕はユウさんを知りすぎていたし、彼女との何気ない日々を失うのも嫌だった。
恥じらう眼差しも。
好意を寄せるその言葉も。
笑顔も、想いも、全て───すべて。
薄っぺらく、空虚なものにしか思えない。
こんなに近くに居るのに。
手を伸ばせば届く場所に居るのに。
僕はユウさんの身体を引き寄せ、答えを待つ彼女の耳許へと囁く。
「僕もですよ」
僕も普段のあなたが───。
その想いを飲み込むように、幸せそうに身を寄せる彼女に、僕はそっと解毒の術をかけた。
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