コンコン。
「ユウさん、起きてますか?」
───朝。
どこにでもあるような食堂兼、宿屋でのこと。
なかなか起きてこないユウを心配して見に来たゼロスは、扉を叩き中の様子を窺っていた。
だが……声を掛けてみても返事が返ってくる様子はない。
「まだ寝てるんですかねぇ……?」
昨日ユウが、懐かしい魔道書を見つけたと本を抱きしめていたのを思いだし苦笑した。
あぁ見えてユウさんて、のめり込んだら周りが見えなくなりますし……。
きっと夜遅くまで本を読んでて起きれなくなったのだろう。
そう思いつつ、彼は寝ているであろう彼女へと声をかけ続けた。
「ユウさん、そろそろ起きないとリナさんに怒られちゃいますよ?」
しかし。
それでもやはり返事はない。
「ユウさん?」
不審に思ったゼロスはもう一度部屋の向こうに声を掛け───と、その時。
カタン……と、ようやく部屋の中で動く気配がした。
パタパタと小走りで扉に近づく足音。
ゼロスは扉の向こうから現れるであろうユウの姿を思い、そっと微笑んだ。
きっといつものように眠い目を擦り、僕を出迎えてくれるのだろうと。
ガチャリ。
ドアノブの回る音に続き扉が開く。
そこから現れたのはゼロスの予想通り、眠たい目を擦る少女の姿。
───しかし。
「……んぅ……だれ?」
「え?」
その少女を目にし、ゼロスは固まった。
ぴょんと跳ねた寝癖。
ぶかぶかのパジャマ。
何より特筆すべきはその人物の年齢だろう。
どう見積もったところで、目の前にいる少女は3、4歳程だった。
身長はゼロスの腰程もなく、あどけない大きな瞳が不思議そうに彼を見上げている。
その出で立ちは少女と言うより幼女と言った方が正しいかもしれない。
「えーと? ……あ、部屋間違えちゃいましたかね?」
その可能性があることに気づき、ゼロスはキョロキョロと辺りを見回してみた。
───けれど、何度確認してみても、ここはユウの泊まっていた部屋で間違いない。
……一体……?
不思議に思うゼロスをよそに、目の前の少女は首を傾げ尋ねる。
「……おじさん、だあれ?」
「おじ……っ!?」
無遠慮な問い掛けに、ゼロスはピクピクと顔を引きつらせた。
しかし、ここで怒るのも大人気ない。
ゼロスは苦笑し、さりげなく訂正しながら少女に話し掛ける。
「"お兄さん"は、ユウさんって方を起こしに来たんですが……」
「わたしを起こしにきたの?」
「いえ……僕が起こしに来たのはユウさんで……」
「じゃあやっぱり、わたしを起こしに来たんでしょ?」
「え……? ユウさん?」
信じられないと思いつつ、そう尋ねると、目の前の少女はコクンと頷いてみせた。
「ユウだよ」
「本当にユウさんなんですか?」
「おじさん、うたぐり深いとモテないよ?」
「ぐ……」
言葉に詰まりつつ、改めて見てみれば少女は確かにユウに似ていた。
髪の色、髪型、目の色。
顔立ちも幼い少女のものではあるが、面影がある。
本当にそうなのかと思い始めたその時。
小さなユウは「あ。」と口に手を当て、困ったような顔をした。
「どうかしたんですか?」
「知らない人に名のっちゃいけないって言われてた」
「誰にですか?」
「ディルに」
「……ディル?」
「どうしよう、怒られるぅ……」
頭を抱えて怯えるユウに、ゼロスはしゃがんで視線を合わせると、指を立て笑ってみせた。
「大丈夫ですよ、バレなきゃ良いんです♪」
それを見たユウは大きな瞳をキョトンとさせた後、笑顔になる。
「そっか! おじさん、ないしょにしてくれる?」
「……えーと、"お兄さん"の名前はゼロスと言います」
「ゼロス……お兄ちゃん?」
「はい」
「ふーん? どこかで聞いたことあるような……」
とは言ったものの、今はそれよりも怒られない事の方が先決。
ユウはピコッと小指を立てると小首を傾げ、
「ゼロスお兄ちゃん、ないしょにしてくれる?」
と不安げにゼロスを見つめた。
それに対し彼は微笑み、その小さな小指に自分の小指を絡めてやる。
「ないしょの約束ね!」
嬉しそうに顔を綻ばせ、指を切る少女。
ゼロスは笑顔のまま頷いてみせた。
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