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「なっ、何だっ!? どうしたっ!?」



驚いた彼は彼女に問い掛ける。

が、ユウはそれどころではなかった。

彼女はゼルガディスに向き直ると、ぐいぐいと服を引っ張り、その場から離れようと促す。



「こここ……ここは危険ですっ! は、離れましょう!」

「お、おい!? どうしたんだっ!?」

「とにかく何でもいいからお願いしますっ!!」

「わかったから引っ張るな」



普段、盗賊だろうが魔族だろうが毅然とした態度で接しているユウの怯えた様子を見て、ゼルガディスはただ事ではないと感じ取り、見えない敵から彼女を守るように扉の前まで引き返した。

そしていつでも戦えるようにと剣を構え、後ろに居るユウに再度尋ねる。


「おい、一体何なんだ?」

「やややや……奴です」

「奴……?」

「奴が現れたんですっ!」

「だからどんな奴だ」



自分に気配を気取らせない程の使い手が現れたのかと、前を見据えたままのやり取り。

緊迫した空気の中、ユウはゼルガディスのマントの端を掴みながら震えていた。

その様子がマントを通してありありとわかる。



「や、奴はどこにでも現れるんです! 外でも宿でも食堂でもお風呂場でもっ!」

「……風呂場?」

「所構わず現れて人が身動き出来ないのを嘲笑うかの様にその存在を示しながら闊歩するんですっ!」

「…………」



風呂場で闊歩……?

変態か?



「不気味な力をその身に宿し、八本足でカサコソはいずり回るさまは悪魔っ!!」

「……は?」

「私の敵っていうか人類の宿敵っ!」

「おい、ちょっと待て……」

「アイツが現れたとなると、もはや一刻の猶予もありませんっ! 戦術的撤退をっ!!」



クルリと背を向け開かない扉へと手を伸ばすユウのフードをゼルガディスはむんずと掴む。

よく見れば先程向かった通路の真ん中、そこに黒い点がある。

彼はその黒い点を指差し、



「おい、まさかお前の言ってる『奴』とはアレか?」

「嫌ーっ! 嫌ーっ!」



見たくないと首を振る彼女に、ゼルガディスは呆れて溜め息を吐いた。



「お前……それならそうと……」

「だだだだだって……だって……」

「たかがク……」

「言っちゃダメーっ!」



いきなり絶叫したユウに、彼はビクリと肩を揺らす。

それには構わず、彼女は涙目になりながらも力説し始めた。



「何てことを言おうとするんですかっ! 名前はただの名称じゃないんですよっ!? それはそのものの証であって、名前を呼ぶことでより一層その身に不気味な力を宿すんですっ!!」

「……何を馬鹿な」

「これは『力ある言葉』と同等の意味があるんですっ!! 名前を呼ぶと言うことは、そのもの自体の存在を確固たるものにすると言うこと! 大体親しくも無いのに何で呼び捨てで呼ばなきゃなんないんですかっ!!」



その理屈が通るなら、固有名詞全てに『さん』付けしなければならないのだが……。

ゼルガディスは深く溜め息を吐き、ユウに呆れた視線を向けた。



「お前、自分で言ってる意味分かってないだろ……」

「当たり前ですっ!!」



潤む瞳をそのままに、パニクるユウ。

そんな中。

移動し始める黒い点。



「嫌あぁああっ!!」

「お、おい! 落ち着け!!」



それを目にした途端、叫ぶユウにしがみつかれ、ゼルガディスは身動きが取れなくなった。



「もうヤダ……こんな所にいるのヤダっ! 早く出ましょうゼルガディスさんっ!!」

「だから落ち着けっ! 出ようにも出れないって話だっただろうがっ!!」

「………………」



その言葉に、彼女はハタと動きを止めた。

ようやく正気に戻ったか。

ゼルガディスは安堵の息を吐き、自分に抱き着き離れないユウを見る。

彼女は震えながら小さく何かを呟き……。



「って、オイッ!?」

「……我が手に集いて力となれ! ファイアー……」

「ちょっと待てぇーっ!!」

「むぐっ」



危機一髪。

火炎球(ファイアー・ボール)を唱えていたユウの口を塞ぎ、ゼルガディスは何とか事なきをえる事が出来た。

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