食堂から部屋に戻り数分。
かすかな気配を感じとり、私は本から視線を上げた。
すると幾ばくもせずに、部屋の真ん中に空間を渡って来たゼロスが現れる。
彼が魔族だと発覚してから、ゼロスは度々私の部屋をこうして訪れるようになったのだが……。
「着替え中だったらどうするの」
「その時は謝ります」
…………控える気は無いのか。
「まぁ良いけど……で、何の用?」
言ったところでどうなるものでもないので単刀直入に切り込むと、「それは僕の台詞ですよ」と笑みを溢しながらの返答が返ってきた。
「どういう意味?」
「ユウさんの方が用があるのでしょう? 食事の間中、ずっと僕を見ていましたよね?」
……あぁ、なんだ気づいていたのか。
珍しく私に助け舟を求めないから、余裕が無いのかと思っていたのだけれど。
「それも、リナさんと話している時に一段と強い視線を感じたのですが」
ゼロスはそう言うと、ベッドに腰掛ける私の前まで来て視線を合わし、意地悪そうな笑みを浮かべた。
「嫉妬、してくれたんですか?」
「何に?」
「僕とリナさんの仲に」
「……自意識過剰」
心底楽しそうなゼロスに、私は呆れ顔で答える。
「おや、お認めにならないんですか?」
「だって違うもの」
リナさんとゼロスの掛け合いは見慣れているし、そもそも私が気になったのはそんな事では無い。
しかし、彼はその言葉を認めなかった。
そっけない態度で否定した私の身体のすぐ横に手を付き、半ば覆いかぶさるように迫ってくる。
ギシッと軋むベッド。
少しでも彼から離れようと身を引くと、そのままベッドの上に上半身だけ倒れる形になった。
「………………何?」
逃げ場のなくなった私は仕方なくゼロスを見上げて尋ねる。
それは牽制の意味も含まれていたのだが、彼にそれが伝わる事は無い。
いつもの笑みを更に深くした顔で彼は言う。
「何故僕を見ていたんですか?」
獲物を追い詰めるように、いたぶり楽しむように。
「何も無いのに僕を見ていた訳ではないでしょう?」
「まぁ……ね」
段々と近づく距離。
覗く瞳。
狂喜にも似た笑顔。
「では何故、どうして僕を見ていたんですか?」
「それは……」
「それは?」
息が触れ合う程の距離でゼロスが問う。
私はそれに答えた。
「暇つぶしに」
───と。
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