「ユウさん……」
きっぱりはっきり答えた私の言葉を聞いた途端、先ほどまでの余裕綽々な態度はどこへやら。
ゼロスは面白いくらいにガクッと項垂れた。
そして情けない声で抗議する。
「少しくらい期待させて下さいよぉっ!!」
「期待? 何を?」
「それは勿論、ユウさんとの甘いひと時ですよ」
「…………魔族と?」
普通に考えれば非常識極まりない発言に、眉を顰め難色を示す。
すると彼は瞳を潤ませ、声を荒げた。
「少しくらい夢見させてくれたって良いじゃないですかぁっ」
ふむ。
もう一息かな。
「夢ねぇ?」
「そうですよ」
「夢は寝て見るものでしょう?」
私はわざと無関心を装いながら、意地悪く述べる。
それは眠る事の無い……と言うより、眠る事の出来ない魔族に対しての皮肉。
ようは『魔族は夢見るな』と言っているのだが……。
その意図に気づかぬゼロスでは無い。
「今日のユウさん冷たいです」
「気のせいよ、ただ単にゼロスを構う気が無いだけで」
「…………ユウさんのいぢわるっ」
そうしてゼロスはついに拗ねてしまった。
部屋の隅にうずくまり、シクシクと泣き続けるゼロス。
「ねぇ……ゼロス」
「……どうせ僕何てユウさんにとっては取るに足らない存在なんです……暇つぶしの玩具なんです……」
「ねぇってば」
「……何ですかぁ?」
「いや……うん」
部屋の片隅から恨みがましい視線を向ける彼に、私は一筋の汗を流した。
まさか本気で泣かれるとは。
思惑通りとはいえ、少しばかり苛めすぎたかもしれない。
でもまぁ、折角作戦も成功したことだし。
実証してみましょうか。
そう思い、私は再び壁に向かってイジケる彼の側へと歩みより、スッと両手を伸ばした。
そして彼の頬に手を添えるとコチラを向かせ、そっと流れる涙に舌を這わす。
「っ!?」
驚くゼロスをそのままに、私は更に目元の涙をすくい───。
「ユウさんっ! やっと僕の気持ちを……っ」
「味しないんだね」
嬉しそうに顔を輝かせる彼を……否、彼の涙を見て呟くと、ゼロスは「は?」と表情を固まらせた。
「魔族の涙ってどんな味がするのかと思って」
「……はぁ」
「芸の細かいゼロスの事だから、しょっぱいのかなと思ったんだけど」
「…………」
「味しないんだね」
作戦は成功したものの、少しばかり残念に思いながらそう言うと、ゼロスはギギギッと錆びついたゼンマイ人形のような動きをした後に問うてきた。
「あの……ユウさん?」
「ん?」
「ユウさんが食堂で僕を見ていたのって」
「いつ泣くかなと思って」
「妙に冷たかったのって……」
「泣かせたくて」
それを聞いた途端───。
「僕の純な心を弄ぶなんてヒドイですっ!」
そういって彼は床へと泣き崩れた。
というか……純な心って。
若干引っかかるものの、しかし苛めてしまったのは紛れもない事実。
私は彼に謝るために手を伸ばし、彼の機嫌が直るまでその背を撫で続ける羽目になったのだった。
あとがき
涙痕───。
その泣き顔に、愛しさが生まれたのは内緒の話。
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