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得たものと失ったものが色々あったセイルーン。

しかし、魔族に狙われている今、立ち止まっている暇はない。

私達は新たな異界黙示録(クレアバイブル)の情報を求め、アメリアさんの故郷……聖王都をあとにした。

そうして向かった隣町への道半ば───。

フィリオネルさん達の見送りが随分前に見えなくなり、分かれ道へと差し掛かった時だった。



「さぁてと、どっちに進む?」



先頭を歩いていたリナさんがおもむろに立ち止まり地図を広げると、アメリアさんが「え!?」と驚きをあらわにする。



「って、リナさん、下調べもせずにココまで来たんですかっ!?」

「そうは言うけど、手がかりも無いし、調べようがないじゃない」

「それはそうですけど……」

「どうするって言われてもなぁ……その何とかっていう……あー、何かを探さなくちゃならないんだろ?」



首を傾げるガウリイさん。

いきなり探し物を忘れるとは流石である。



異界黙示録(クレアバイブル)の写本ですよ、ガウリイさん」

「おー、それだそれだ」



アメリアさんの言葉にポンと笑顔で手を打つが……。

リナさんの額には、くっきりと青筋が浮かんでいたりする。



「一体あんたは何を聞いてたのよッ!? 散々あたし達が話してたでしょうが!」

「そうだったか?」

「あぁ、もうっ! あんたは黙ってあたし達についてくれば良いのよ!」

「お、おぅ」



触らぬ神に祟りなし。

勢いに任せてしゃべるリナさんに、ガウリイさんはコクコクと頷いた。

それを確認して、今度は後ろへとジトンとした視線を投げる彼女。



「で? アンタは一体どこまでついてくる気なのよ、ゼロス」

「そんな嫌そうにしないで下さいよ。僕としても色々事情があるんですよ、事情が」

「事情ねぇ?」

「どうせ聞いたところで、その事情とやらは言わないつもりなんだろう?」

「よくお分かりで」

「かと言って、どうせついてくるなって言っても無駄なんでしょ」

「勿論です」

「ったく……」



溜め息をつくリナさんに、苛立つゼルガディスさん。

そして、いつもの様に飄々としているゼロス。

そんな三人を「まぁまぁ」と宥めるのは、アメリアさん。

その様子を、ぼーっと眺めるのはこの私。



「まぁ、言ったところで始まんないからこれ以上は突っ込まないけど、なんか情報持ってんならあんたも教えなさいよね」

「そうですねぇ……この町には寺院に隠された秘蔵書が、こちらは魔術師協会の評議長の趣味が珍しい魔道書集め、そしてこの村には隠れた名産、えのきだけがあるそうです」

「えのきって……本気で隠れた名産ね……」

「とは言っても鍋物には欠かせませんよ!」

「まぁ、そりゃそーだけど」

「それより何故そんな個人の事まで知っている」

「それは、ひ・み・つです♪」



…………。

んー、どうにもやる気が出ない。

皆が次の行先を決めている間、私は話に参加するのも億劫で、近くにあった石に腰掛けながらただただ、ぼーっとその様子を眺めていた。

起きた時からずっとこんな調子なのだ。

朝方その事をリナさんに告げれば「いつもの事じゃない」と一蹴されてしまったのだが……。

反論できないのが辛いところである。



「おい」

「…………」

「おいユウ、大丈夫か?」

「……ぇ……っ!?」



突然目の前に顔が出てきて、思わず息を止める。

その正体は、話に参加できないガウリイさんだった。



「……あの?」

「さっきから呼んでたんだが……大丈夫か?」

「ぁ……単にやる気が無いだけなので大丈夫です」

「そうか?」

「はい」



何でも無いという様にニコリと微笑めば、ガウリイさんの顔は納得いかないとばかりに歪められる。



「疲れたならちゃんと言えよ?」

「大丈夫ですって。出発してそんなに経ってないですし」



いくら私の体力が無いと言っても、そこまでひどくは無い。

……と思う。

そうこうしている内に次の行先が決まったのか、リナさんが地図を仕舞いながら歩き出す。



「ユウ、ガウリイ、行くわよー」

「あ、はい」



と、その時。

突然立ったのがいけなかったのか、視界がグラリと揺れて、足元がふら付いた。

目の前が暗くなり、血の気が引く。



「───っ!?」

「ユウっ!?」



ガウリイさんに支えられ、何とか踏み留まったものの眩暈は治まらない。

そこに掛かるゼロスの声。



「大丈夫ですかっ!?」

「あぁ、ただの立ち眩みですから」

「もしかして、また寝不足なんじゃあ……?」

「大丈夫ですって」

「でも……」



眉尻を下げるその表情から、私を案じてくれてるのが分かる。

その心配が杞憂である事を伝えようと笑みを浮かべた、その刹那。

急に伸びてきた大きな手の平が、私の額を覆った。



「へ?」

「なっ!?」



突然の事に言葉を失う私達。

ただ一人、この事態を作り出したガウリイさんだけは怒ったように、眉間にしわを寄せ、



「やっぱり、熱がある」



と呟いた。

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