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───どうして

どうして僕は……───



そのどうしようもない感情に、僕は杖を握る手に力を込めた。










───そろそろ路銀が心許なくなってきた。



リナさんがそう告げたのは昨日の事。

最近盗賊のいる辺りを通らなかった為、臨時収入が無かったのだそうだ。

けして無駄遣いをしている訳ではないらしいのだが、彼女達の食事の事を考えると出費だけがかさむ様が容易に想像がつく。

そんな訳で比較的大きな街に着いた今回、二人一組になって仕事をする事になった。

リナさんはガウリイさんと。

アメリアさんはゼルガディスさんと。

そしてユウさんは僕と。

まぁ、僕自身が旅費を払ってもらっている訳では無いので、手伝う義理も何もないのだけれど。

ユウさんを一人で働かせるのは心配だし、何より───



「あの、アルバートさん」

「あ、俺の事は気さくにアルって呼んでくれて構わないよー♪」



何より、ユウさんに対し気安く肩を抱く彼を、ユウさんと二人きりにするのは気にくわなかった。

アルバートと名乗った彼はお金持ちの一人息子らしいが、どうにもユウさんに興味があるようで。

彼の父親に『街から離れた避暑地への護衛』と言う説明を受けてる最中、ずっと彼女を見ていたのだ。

更には自己紹介をと促されて開口一番放った言葉が「君たち付き合ってるの?」というもので……。

「ただの旅仲間です」と即答したユウさんには苦笑せざるをえなかったけど。

そんな僕を知ってか知らずか、目の前の彼は無遠慮に彼女に近づいていく。



「っていうか、こんなに暑いのにその恰好で暑くないの?」



ちなみに本日の天候は文句なしの晴天。

真夏の日差しがジリジリと容赦なく降り注いでいる。

魔族である僕は何とも思わないが、人間には耐え難いのだろう。

フード付きのマントをがっちり着込んだユウさんを見て、そんな事を思う。

何故そんな恰好をしているかと言えば、マントの下で微弱の冷気呪文を唱えているからで、冷気が逃げないようにマントの縁をピッタリと合わせているのだ。

しかし、魔道に縁の無い者から見ればその姿は奇妙に映るのか、彼は彼女のフードに手を伸ばし───って、な!?



「せっかくの可愛い顔が見えないなんてもったいないよ」



勝手にフードを取り払いながら顔を覗き込むように言うその姿に、僕は湧きあがる殺意を隠しもせずにぶつけた。

途端、彼は身震いし「何か寒くない?」と腕を擦る。



「『こんなに暑い』のに、寒いだなんて風邪じゃないですか?」

「まさかー」

「風邪はひき始めが肝心って言いますし、今回の外出は控えた方が良いのでは?」



嘲りを含みながら告げれば、ユウさんが「ゼロス」と一言声を発した。

他に何かを言われたわけではない。

けれどそれが非難めいた呼びかけである事は、表情から簡単に窺える。



「…………」

「…………」

「あー、寒いからユウちゃん暖めて―」



僕たちの間に流れる沈黙をものともせず、ユウさんに両腕を伸ばす彼に口の端が引きつるのを感じる。

結局───僕は面白くないと思いつつも、殺意を押える羽目になった。

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