ありえない。
その5文字が思考を埋め尽くす。
あのゼロスがレッサーデーモンに吹き飛ばされるなんて。
……が、現実に起きてしまったのだから認めざるを得ない。
更に今はそんな事に気を囚われている場合じゃない。
私はレッサーデーモンと対峙しながら、声を張り上げた。
「アルバートさん走って!」
「む、むむむむ無理っ!」
私の指示に、震えた否定の言葉。
チラリと振り向けば、彼は尻餅をついたままその場で動けなくなっていた。
まずい。
彼を守りながらこの状況を脱するのは極めて困難である。
この場には厄介なんてものじゃないくらいの存在があるのだ。
蜂蜜色の長い髪をゆったりと青いリボンで括り、紫色のコートの胸ポケットに白バラをあしらえた格好。
常人にはいささか理解しがたいセンスの持ち主。
けれど人の姿をしたそれは、突然何もない空間から現れた、紛れもない純魔族。
今はまだその純魔族が動き出す気配が無いから何とかなってはいるが、それも時間の問題だろう。
純魔族が動けば圧倒的に不利になる。
その前に少しでもこの事態を好転させなければ。
レッサーデーモンとの攻防の中、チラリと視線を巡らせれば、よろけながらも何とか立ち上がるゼロスの姿が見えた。
その事にホッとしつつも、けして手放しで喜べるような状況では無い。
アルバートさんを背にしながら、私の思考は目まぐるしく打開策を考える。
しかし、そんな私をアチラ側は待ってはくれなかった。
純魔族がゼロスに向かって歩き出したのだ。
それはとてもゆったりとした動きで、今すぐどうこうなると言う訳ではなさそうだが、のんびりもしてられない。
アルバートさんが居なければもう少し動けるのだけれど……。
ヤキモキしたまま術を唱え、3体目のレッサーデーモンを無に帰す。
よし、あと1体。
レッサーデーモンが単純な攻撃しかできない知能の持ち主で助かった。
大ぶりな攻撃に、対処しやすい火の矢。
私の体術でもなんとかなる。
私は最後のレッサーデーモンに狙いを定め───と、その時。
後ろの方で言い争う様な声が聞こえ、私は思わず振り向いてしまった。
その視線の先には、ステッキの先で肩を木に押さえつけられているゼロス。
歪む彼の顔。
その時、私の中で何かが切れたような気がした。
唱えていた術をレッサーデーモンへと解き放ち、すぐさま次の呪文を唱える。
それは高圧力の強風が吹き荒れ、敵味方を問わずに吹き飛ばす術。
───そう、敵味方を問わずに。
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