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「ふふふっ、同族の負の感情と言うのも、なかなか乙なものだな」



僕の目の前に立った彼は、そんな事を言いながら持っている杖先を肩に押し当ててくる。

半ば混乱する思考のまま僕は彼を見やり、目を細めた。



「僕にご用のようですが、どちら様でしょう」

「わたしを知らない?」

「存じ上げませんねぇ」



そう答えれば彼は不敵な笑みを浮かべ、きっぱりと言い切る。



「わたしは、貴方を嫌う者の1人だ」

「…………」

「なぜ冥王様は、こんな仕事のできない奴を計画に組み込まれたのか……」

「冥王、様?」



という事はこの方は───。



「あぁ、そうだ。わたしは冥王様の部下、シュヴァリエ」



僕の考えを肯定するように彼、シュヴァリエさんはニヤリと笑い、自己紹介をしてくれる。

とは言っても、それは親切心からではなく、僕への牽制がありありと見えるものだった。



「まさか貴方ともあろうものが人間にうつつを抜かすとはお笑い草だ」

「…………」

「ましてや何故そんなにイライラしながらあの娘と共に行動をする。気に入らないものは全て滅ぼしてしまえばいい。貴方ほどの実力があるなら簡単な事だろう?」

「随分とまぁ、色々ご存知のようですねぇ……」

「敵を倒すためには情報はあって困るものでは無いからな。それに相手は竜を滅せし者の異名を持つ獣神官ゼロス、貴方だ」



僕を倒す。

随分と簡単に言ってくれる。

……が、今の状況ではあながち笑いごとにならない。



「とは言え、人間に入れあげたあげく勝手に弱体化してくれた君程度に、わたしの完璧な計画を実行するまでも無いが」

「……完璧な計画ですか」

「あぁ、そうとも」

「ですが、僕を倒したら冥王様からお咎めを受けるのでは?」

「ふふん、その穴埋めはわたしが引き受ける」

「……貴方が?」



その言葉に、僕は思わず笑ってしまう。



「それは無理、無謀と言うものでしょう、シュヴァリエさん」

「何?」



この件にはあの魔竜王も噛んでいるのだ。

冥王様の腹心は降魔戦争で滅んで既にいない。

となると、僕の目の前にいるこの方の実力は腹心以下。

更に僕が知らないという事は純魔族の中でもそれ程高位ではない。

その事から、今回のこの一件を任せられるほどの力があるとは到底思えない。



「もともと僕は獣神官、獣王様にお仕えする身です。冥王様の下で働かなくていいのならそれで構いませんが、この件は貴方ごときに任せられるようなものでは無いんですよ」

「ごときだと?」

「そもそも今回の計画の内容を貴方はご存じなんですか? まぁ、知っていればこんな馬鹿げた真似はしてないでしょうが」

「……うるさい、黙れ……」

「それにレッサーデーモンを引き連れてるようじゃ程度がしれて……」

「黙れと言っているだろっ!」



僕の挑発に簡単に乗ったシュヴァリエさんは杖を持つ手に力を入れた。

否応なしに痛みが走る。

何だかんだ言っても一応は純魔族。

普段なら堪えないであろうそれも、今は充分に効果がある。



「ぐ……」

「わたしを愚弄して挑発のつもりかっ!?」

「あ……分かっちゃいました?」



彼の言葉に、僕は余裕ぶっておちゃらけてみせる。

それに対して益々激高するシュヴァリエさん。



「っ!! わたしの隙をついて逃げおおせるつもりだろうが、そうはいかないぞっ!! 貴様だけは塵も残らず消滅してくれるっ!!」



余程腹が立ったのか、彼は杖を僕から離すと、スラリとその刀身を露わにさせた。

どうやら仕込み杖だったらしい。

自身が魔族でありながらそんな小細工をする必要はないと思うが、きっと形から入るタイプなのだろう。

まぁそんな事はともかく。

どうやら僕の思惑通りに事が運びそうで、ひとまず安堵する。

シュヴァリエさんは僕が逃げる為に挑発したと思っているみたいだけど、勿論そうじゃない。

逃走の機会をつくった事は間違いないが、それは僕ではなくユウさんの為。

僕の個人的な恨みで彼女を巻き込みたくなかったから。



……───だと言うのに。





僕の安堵は一瞬で泡と消えた。

ユウさんが引き起こした爆風によって。

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