「…………どうするの、コレ」
目の前の空間を見てから、私は隣に視線を移す。
「あははは……まぁ、過ぎた事は仕方ありませんよ」
後ろ頭に手をやりながらニコニコと他人事のように言って笑うゼロスに、私は一つ息を吐く。
どうやらすっかりいつもの調子を取り戻したみたいだけど……。
それにしたってコレはちょっと……。
もう一度視線を前に戻し、私は額に汗した。
何もかもが私達を中心に消え去ってしまっているのだ。
道の両端にあった木々も、私の創った錐状の岩も、何もかも。
そこに生命の息吹は感じられず、勿論先程までいた純魔族の姿も跡形もなく消滅している。
「調子を取り戻してくれたのは私としても嬉しいけれど、でもやり過ぎじゃない?」
「いやぁ、お恥ずかしい話、僕も無我夢中でしたから」
「無我夢中で環境破壊されたら堪ったもんじゃないと思うんだけど」
巻き込まれた人とか居ないでしょうね?
「って、アルバートさん大丈夫かな」
「まぁ、事前にユウさんに吹き飛ばされていましたし、そんなに被害は無いんじゃないですか」
「……だと良いけど」
まぁ、生きてさえいれば治療か復活で何とかしてみせるけど。
「それにしても、何でまた急に力が戻ったの?」
「何と言いますか、自己暗示にかかってたようで」
「自己暗示?」
「その所為で力が振るえなくなっていたようなんですが、色々あって吹っ切れたと言いますか」
「というか何で自己暗示になんてかかってたの」
そう再度尋ねれば、ゼロスは「それは……」と口ごもる。
「…………」
「って、何でそこでジト目になるんですか!」
「いや、だって。ゼロスが『それは……』って間を開ける時って、大体『秘密です♪』ってはぐらかすもんだから」
言ってゼロスを見れば、彼は極まり悪そうに頭を掻く。
どうやら今回もはぐらかそうとしていたらしい。
……まぁ、ゼロスらしいと言えばゼロスらしいけど。
「……ったんです」
「ん?」
「人間が」
「え?」
「いえ、何でもありません」
………………。
「ところで傷の具合はどうですか?」
「ん、もう平気」
粗方負った怪我はそれこそ復活で治し、一番酷かった足も今はもう元通りである。
「痕も無いようですね」
「でも流石に疲れちゃったかな」
まぁ、こればっかりは仕方ない。
……事も無いか。
ストレス発散の為だけに考え無しに魔法を連発したのもこの疲れに一役買ってると思うと、今後は控えなきゃなと少しばかり反省する。
そんな事を思っていると、「では」と前置きしたゼロスがニッコリ笑って言う。
「僕が運んで差し上げましょうか?」
その申し出に、私の怠け心が揺れる。
どうしよう。
物凄く有り難い申し出だけど。
いや、でも、うーん。
「…………お願い、しようかな」
結局、私は楽な道を取った。
まぁ、断る理由も無かったし。
ゼロスは笑顔のまま快く引き受けてくれると、「では失礼して」と私の膝裏に手を差し込んでくる。
「って、ちょっ!?」
「あぁ、暴れると落ちちゃいますよ」
「は、運ぶって空間移動じゃ……」
「それじゃあアルバートさんを探せないじゃないですか」
「ぅっ、た……確かにそうだけど」
でもお姫様抱っこだなんて聞いてない!
「さ、しっかり掴まってて下さいね」
「やっぱり自分で歩く」
「まぁまぁ、念のためですよ」
「いや、歩けるから」
「ダメです」
「大丈夫だって」
「ダメです」
「降ろして」
「嫌です」
…………。
「おーろーしーてーっ!」
「いーやーでーすぅ」
暴れると落ちるとか言っていたくせに、ジタバタもがく私を危なげもなく運ぶゼロス。
かくしてこのやり取りは、気を失ったアルバートさんを見つけるまで続くのだった───。
あとがき
羨望。
───束の間、人間に憧れた魔族のお話。
(20万Hit企画 橘みほ様へ)
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