「……ん」
───眠れない。
長椅子から身を起こし、私は小さく息を吐いた。
聖堂には、私と同じくここで一晩雨宿りをする事になったリナさん達が思い思いの場所で横になっている。
自己紹介の後、他愛ない話に花を咲かせた私達。
聖堂には笑い声と怒声が響き渡った。
だが旅の疲れからか、はたまた騒ぎ疲れたのか、今は皆寝静まり、辺りには静寂が訪れている。
たまに意味不明な寝言も聞こえたりするけど。
その様子に私は微笑し、毛布代わりにしていたマントをその場に残して立ち上がる。
その拍子に、しゃらん…とマントの裾に連なっている飾りが音をたてた。
多少なりともドキッとしながら辺りを見回すが、起きた者はいなさそうである。
私は彼女達を起こさないように気を付けながら椅子の間を歩き、外への扉を静かに開けた。
錆び付いた扉は……キィ……と小さな開閉音をたて、開いたその隙間から夜風が聖堂に流れ込んでくる。
私はなるべく素早く扉をくぐり抜け、けれど。
音をたてない様にゆっくりと扉を閉めてから、薄暗い闇の中に身を置いた。
ひんやりとし、それでいて静かな空間に安堵感が生まれ、深く息を吐く。
雨は未だ止むこと無く降り続けているが、静寂の中の雨音がかえって心地好い。
「でも……ちょっと寒いかも」
夜の冴え渡った空気は冷たく肌を刺し、最初は心地好かった涼しさが既に肌寒く感じる。
マント持って来れば良かったかな……。
取りに行こうかとも思ったが、皆を起こしてしまうかもしれないと思い、止めることにした。
長居するつもりもないし……。
私はその場に腰掛け、雨音に耳を傾けながら空を見上げた。
それは何とも不思議な光景。
雨が降っているにも関わらず満月が顔を覗かせ、辺りをほのかな明かりで照らしているのだ。
まるで……───。
「不思議な夜ですね」
「───!?」
ボーッと月に見入っていると、突如として後ろから掛けられた声。
警戒していなかっただけに私は驚き、息を呑んで後ろを振り返る。
と、そこには。
扉の前に黒い人影───。
微笑みを携えたゼロスさんの姿があった。
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