一体いつの間に……?
扉の開閉音は聞こえなかったのに。
でも、それよりも。
「すみません……起こしちゃいましたか?」
私の立てた物音で起こしてしまったのではないかと尋ねると、彼は笑顔のまま首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。それより……ユウさんも眠れないんですか?」
「えぇ……まぁ」
「実は僕もなんですよ。まぁ、僕の場合は眠れないと言うより寝なくて良いんですけどね」
「?」
「あ、いえ。気にしないでください……大した事じゃないんで」
ゼロスさんの言わんとしている事が解らず首を傾げる私だったが、彼は別段気にした素振りも見せずに話を切り上げる。
…………それにしても。
こうしてみると一見ただの好青年って感じなのだが。
全体的に漂う空気はどこか異質。
そこに居るのに決して本心は見せない。
まるで雨夜の月の様。
「ユウさん?」
「……ぇ?」
じっと彼の顔を見ながら考えに耽っていた私は、ゼロスさんの呼び掛けに、ふと我に返る。
「あ、ごめんなさい……」
「くすくす……隣、良いですか?」
「……どうぞ」
ススッと場所を開けると、ゼロスさんは隣に腰を下ろし、私の肩を抱くようにマントで包み込んだ。
「……あの……?」
「寒いのでしょう?」
……どうやら無意識の内に腕を擦っていたらしい。
「ありがとうございます」
「いえ」
私が見上げると、ニッコリと微笑み見下ろされた。
…………作り物見たいに綺麗な顔。
その笑顔に言葉を詰まらせ、私は視線を地面へとさ迷わせる。
……何と言うか気まずい……。
かと言って早々に退散するのは折角の好意を無下にするようで気が引ける。
「…………」
「…………」
彼の腕に包まれ、お互い無言のまま暫しの時が流れた。
そろそろ戻っても良い頃合いか。
まだ早いか……。
タイミングを見計いながら、いつ戻ることを伝えようかと逡巡する。
そんな目まぐるしい思考とは裏腹に雨の音しか聞こえない静寂の中、ゼロスさんはポツリと言葉を述べた。
「それにしても不思議ですね」
「……はい?」
「月がです」
言われて私も再度空へと視線を移す。
確かに不思議な夜だった。
不思議な夜に不思議な人達。
そんな事を思いつつ、私は呟く。
「まるで……泣いているみたいですね」
「月がですか?」
「……はい」
「だとしたら一体何を悲しんでいるんですかねぇ?」
一瞬馬鹿にされるかとも思ったが、思いの外彼はすんなりとそんな疑問を口にする。
その疑問に私は「さぁ……?」と答え、続けて言った。
「もしかしたら誰かの代わりに泣いてるのかも知れませんね」
その言葉に彼はジッと私の顔を見て、
「誰かとはユウさんの事ですか?」
「ふふっ……私はそんなに繊細じゃありませんよ」
そんな言葉のやり取りを交わし、私は微笑する。
「そうですか? リナさん達に比べれば随分と心細やかに思いますが」
「そんな事を言ったら怒られますよ?」
「それじゃあ秘密にしておいて下さいね」
口許に人指し指を当て冗談っぽく笑う彼に、私もつられて笑顔になる。
「そう言えば……」
「はい?」
リナさんの名前が出たので、私は気になっていた事をゼロスさんに尋ねてみた。
「ゼロスさんはどうしてリナさん達と旅をしてるんですか?」
それなりに親しそうにしていた彼等だったが、リナさん達とゼロスさんの間には見えない一線があるように思う。
そんな彼等が一緒にいる理由とはどんなものなのか?
何となく気になってしまったのだ。
「それは上司命令で……」
「そうじゃなくて」
先程と同じ答えを返す彼に、私は再度聞き直す。
「どういった上司命令で一緒にいるのかなと」
そう尋ねるとゼロスさんはニッコリと笑い、
「それは……」
「それは?」
おうむ返しに問う私に、彼は口元に人差し指を押し当て答える。
「秘密です♪」
───と。
ただ一言を。
あとがき
雨の降る夜の月。
その姿は雲に隠れて解らない。
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