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「僕ばっかりがユウさんを好きだなんて、ズルいです!」



そう言って突如現れた訪問者は、バンっとテーブルを叩いた。

その拍子にテーブルの上に放置してあった2つのティーカップがカチャリと音を立てる。

ソファに仰向けに寝転がり片足を床へと投げ出した、とても上品とは言えない格好で読書中だった僕は読んでいた本から視線をずらすと、チラリと棚の上の時計に目をやり時刻を確認する。

短針は2を指し示し、長針は丁度12を回ったところ。

2時か。

そんな当たり前の感想を抱きながら、こんな時間に訪ねて来た訪問者の非常識さに呆れつつ顔を仰ぎ見ると、そこには若干涙目になってる何とも情けないロリコン魔族の姿があった。

何と言うか関わり合いになりたくない。

大体にして、



「……どうしてそれを僕に言いに来るかな」



もし『コレ』が可愛い女の子だったら頭を撫でながらゆっくり話を聞いてあげたし、美しい女性なら僕の胸を貸しながら落ち着くよう諭しただろう。

仮に男だったとしても相談に乗る事を惜しむことはしない。

けれど、生憎相手はロリコン魔族。

しかもこの情けない存在は、ユウにぞんざいに扱われる度にココへと抗議に来るのだ。

こちらの身にもなって欲しい。

一瞬面倒くささから無視を決め込もうかとも思ったけど、いつまでもウジウジと居座られるのも邪魔くさい。

暫しの思考の末、僕は溜め息を吐きつつ彼の話を聞く為に体を起こした。

同じ面倒なら早々に立ち去ってもらえる方を選んだのだが……。

声と表情は自然と無愛想になる。



「……本人にそう言ってみたら?」

「言いました」

「あぁ、言ったんだ」

「言いましたとも!」



この魔族にしては珍しく語気を荒げながらの力説に、若干体を後ろへと引く。



「で、ユウは何て?」

「『そう?』の一言で、たった2文字と疑問符だけで切り返して寝ちゃったんですよ!」

「ユウらしいね」

「……」



僕の返答に納得いかないと言わんばかりの表情を浮かべるロリコン君。

と言うかこの言い草からして、それはつい先程のやり取りなのだろう。

この時間、ユウはとっくに寝てしまっているはずだ。

にもかかわらずこの彼はユウのもとへ出向いて、寝てるユウを起こし、尚且つ今のやり取りをしたと。

…………。



「それは君が悪いでしょ」

「……っ」

「もう少し早い時間に来ればユウが不機嫌になる事も無いのに」



数時間前、僕の目の前でミルクティーを飲んでいたユウを思い浮かべ、嘆息する。

本当に、もう少し早くこのロリコン魔族が訪れてくれれば……。



「知ってるでしょ? ユウが睡眠を邪魔されるのが嫌いだってことは」

「それは……そうですけど、僕にも都合がありまして」

「適当に済ませられないの?」

「そういう訳にも……」



まぁ、それはそうだろう。

こんな情けない姿を晒してはいるが、彼は紛れもなく魔王の腹心である獣王の右腕的存在。

仕事を疎かにすることも出来ないのだろう。

人間にしてみればいい迷惑なんだけど。

とは言えこのまま彼が仕事続きで、こんな状態が続くのは困る。

非常に困る。



「仕事も良いけどさ、ちゃんとユウの事も大事にしてあげてよね」

「……してるつもり、なんですがねぇ」

「つもりじゃダメなんだよ、してくれなきゃ。その内『仕事と私どっちが大事なの?』とか言われちゃうかもしれないよ?」

「……うっ……」



まぁ、ユウはそんな事言わないだろうけど。

言葉に詰まっている彼を見て深い息を吐く。

そう、きっとユウはそんな事を言わない。

両天秤にかける対象が比べられない事をちゃんと理解しているし、それにロリコン君を困らせる事を良しとしないだろう。

まったく、こんな『男』の為に……。



「で、ですがユウさんの性格上そう言った事は言わないんじゃないかと……」

「言われないからって君はそれに甘える訳?」

「……そ、れは」

「ユウはね、何だかんだ言いながら君が来るのを待っているんだよ」

「そう、でしょうか?」



キッパリと言い切れば、目の前の男は信じられないとばかりに眉間に皺を寄せる。

まったく、これだから乙女心の分からない奴は……。



「ただ君が来るタイミングが最悪ってだけで、絶対に思っているよ」

「……それなら、少しくらい……」

「想いに報いて欲しいって?」

「………………はい」



力なく頷く鈍感くん。



「僕の持論としては愛は与えるものって考えてるんだけど、魔族の君には分からないだろうねぇ」

「…………」

「ま、それはそれとして。君は本当にそう思っているのかい?」

「……そう、とは?」

「ユウが君の想いに欠片も報いてないって」

「そういう聞かれ方をすると欠片もって事はないと思いますが、少なくとも僕に会いたいと思ってくれていると言うのは……」



自分で言ってて落ち込んだのか段々声に力が無くなり、最後は聞こえなくなってしまったが僕の言っている事が信じられないという事は分かった。

でも僕は知っている。

眠いのを我慢しながらいつ来るかもわからない魔族の為に、毎晩ミルクを用意して待っているユウを。

無駄になってしまったそれでミルクティーを差し入れに来る時の何とも言えない表情をするユウを。

時計を気にするユウに「来ないね」と言った時の「うん」と呟く寂しそうな声を。

僕は知っている。

それはつい数時間前にしたやり取りでもあった。

目の前にあるティーカップの内の1つを見てユウの心情を推し量り、やるせなさに天井を見上げる。

それに引き替えこの男は事情も知らずに報われていないと来たもんだ。

まったく、本当に、どうしようもなく、



「アホだね君は」

「は?」

「あー、やだやだ。どうしてこんな男の為に僕が怒られなきゃなんないんだろ」

「怒ら……?」

「そうだよ。君がここに来たと知ったユウが『ずるい』って恨み言を言うんだ。そこのクッションを抱きしめながら、上目遣いで。その姿が可愛いからついつい君が来たことをバラしちゃうんだけど、でもやっぱり『ユーリばっかりずるい』って言われるのはちょっと納得いかないよね。僕だって好き好んでこんなロリコン魔族に付き合っている訳じゃないんだし」

「…………」

「まったく、本当に、どうしようもなくアホだよ君」

「に、2回言う程……」

「何度だって言ってあげるよ。言ったよね? ユウを泣かすような事があったら許さないって」



こんな奴の為にユウが泣くなんて。



「だからさ、こんな所で油を売ってる暇があるならこの時間に仕事を片付けて、少しでも早い時間にユウに会いに来てあげてよ。そしたら君も僕の言った事が本当だって少しは分かるんじゃない?」



そう告げれば彼は数秒思案し、やがて「そうですね」とポツリと呟いた。

それに対し僕はヒラヒラと手を動かし、



「ほら、分かったんならさっさと帰って仕事してくる」

「……なんか体よく追い出そうとしてません?」

「あ、分かった? 流石に僕も眠くなってきたし、いい加減面倒だし、はよ帰れって言うのが本音だけど」

「……夜分遅くに失礼しました」

「ま、ユウの為なら君のアホっぷりに付き合うのもやぶさかではないよ」



そう言って肩を竦めれば、目の前の男は苦笑しつつも礼を述べて姿を消した。



「……ありがとうございます、か」



しんと静まり返った部屋で独りごちる。

まさか魔族に礼を言われる日が来るなんて、思いも寄らなかった。

それ以上に魔族の相談に乗る事の方が問題な気もするけど。

アホは僕の方かもしれない。



「だいたい、贅沢な悩みなんだよね」



何だかんだ言いつつ会えるだけ良いじゃないか。

募らせるだけの想いもあると言うのに。



「………………寝よ」



これ以上考えたらあのニコ目の魔族を滅ぼしたくなりそうだ。

僕はぼふんとソファに横になると、せめて夢の中で想い人に会えるようにと目を閉じた。












───その数日後。

昼間ユウに会いに来たロリコン君が、笑みを浮かべた彼女に「どちら様ですか?」と言われ、僕の部屋に泣きながら訪れたのはまた別のお話。














あとがき

それが彼女達の日常風景。
お決まり事。

(20万Hit企画 チャイ様へ)

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