いつまで経っても来ない攻撃を不思議に思う余裕もなく、私は絶叫する。
「いやぁ! いやいやいやーーーーっ!!」
「……さん」
「やだやだやだやだ、お家に帰るぅ」
「……ユウさん」
いつの間にか耳を塞いでいた手を取られ、引っ張り上げられる。
その予期せぬ出来事に、体がビクンッと震えた。
「やぁっ」
「ユウさん、落ち着いてください」
戒めを解き放とうと、私は必死に腕を振り回す。
すると身体全体が何かに拘束され、耳許で「僕です。目を開けてください」との声。
その囁きに私は全ての動きを停止させ、ゆっくりゆっくり……声の指示通りに目を開けた。
「はい、良くできました」
「……ゼロ……ス?」
一番最初に飛び込んできたのは彼の笑顔。
その笑みに安堵し、しかし次の瞬間、はたと気づく。
「やだっ、離してっ!」
ここに居たくない。
早くこの場を離れたい。
その一心でゼロスの体を押し返すのに、彼はびくともしなかった。
「いやぁっ!」
そんな彼はあやす様な手つきで、私の背を叩く。
ぽんぽんと刻まれるリズムと、「大丈夫ですよ」との声。
そして先程からの変わらぬ笑顔に、私は窺うような視線を投げ掛けた。
それに答えるようにゼロスは言う。
「大丈夫、ここは安全です」
「……安……全?」
その言葉に、私は彼の肩越しから恐る恐る辺りを見回した。
どうやらここは先程いた場所とは違う部屋らしい。
もちろん、私の天敵もここには居ない。
安堵感から力が抜け、私は彼に体を預けてホッと息を吐いた。
「ごめん、ありがとう」
何とか落ち着きを取り戻した私は、何かに縋りたくて思わず掴んでいたであろう彼のマントから手を離し、お礼を述べる。
と言うか、何がどうなってこんな状態に?
それにアレが居ないのは嬉しいが、一体ここは……。
それらを確かめるべく、私はゼロスを見上げて問い掛けた。
「……一体何がどうなってるの?」
「どうと言う程の事ではないですよ。ユウさんがク……」
「ダメッ! 奴の名を呼ばないでっ!!」
ゼロスの言わんとした単語に拒否反応を起こし、私は再び耳を塞ぎながら首を振る。
瞳に涙すら浮かべて嫌がるその様子を見て、彼は苦笑しながら言った。
「わかりました。もうアレの名は言いませんよ」
「本当……?」
彼は再度耳から手を退かせると、上目遣いでビクビクする私に安心させるように笑みを浮かべ、
「はい。ユウさんの前では決して『クモ』等とは……」
ガンッ!
その一言に。
私の怒りの蹴りは、ゼロスの足を完全にとらえていた。
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