「まさか、本当に眠ってしまうとは……」
暖かな日差しが降り注ぐ丘で、僕はポツリと呟いた。
彼女───ユウさんが眠りに就き、どれほどの時間が過ぎただろうか。
初めこそ抵抗を見せ、僕の思惑を見い出そうとしていたのに、次の瞬間にはあっさりと寝入ってしまったのだ。
「おやすみ」と言う一言を残して。
それとも、余程疲れていたのだろうか?
先日の不死騒動───。
あのルビアとか言う女性が『殺して』と呟いた後。
不死を求めた魔道師は、呆気なく自害した。
烈火球という火炎系最強の術を使い、屋敷ごと破壊して。
多くの犠牲を払い、魔族と契約し、不死まで求め……───結局、彼は彼女と共に死ぬ事を選んだのだ。
その事で、少なからずユウさんにも精神的なダメージがあったようで……。
リナさん達の前では普通に振る舞っているが、夜になると寝付けないのか、一人ぼーっ……と空を見上げてるユウさんを何度も見かけた。
そこで今回、僕はこれを利用し、ユウさんを油断させようと目論んだのだが───。
「……油断させるまでもなかったですね」
未だ眠りに就いたままのユウさんに視線を落とし、彼女の寝顔を盗み見ながら僕は呟いた。
本当によく眠っている。
あどけない表情をさらし、僕に身を委ね。
「ユウさん……」
小声でそっと呼びかけるも、彼女は身動ぐだけで起きる気配はない。
その事が、僕を微妙な気持ちにさせた。
それは安心しきっている事を示しているから。
───……『安心』。
それは僕と言う存在におよそそぐわない言葉。
なのに……───。
そもそも僕が彼女を油断させようと思ったのは、勘の鋭いユウさんに、これ以上僕の計画を知られないようにする為。
知ればきっとユウさんは僕の邪魔をするだろうから。
だから僕と言う存在を信用させ、安心させ───油断させようとした。
けれど……。
信用してないと言い切った相手の腕の中で、躊躇わずに眠ってしまうとは予想外だった。
……わかっているのだろうか?
今、この状況がとても危ないという事に。
わかっているのだろうか?
「寝首を掻かれても文句は言えないんですよ?」
「………………」
しかし僕の言葉に返事はなく、ただ優しい風が吹き抜けて行く。
それとも、僕の事を信用してくれたんだろうか?
もしそうだとすれば、人間とは愚かですね。
少し優しくしただけで簡単に信用してしまうのですから……。
……あぁ、愚かと言えば。
セイグラムさん、彼も利口とは言い難かったですね。
リナさんを仲間に引き込もうと画策して失敗し、呆気なく仮面を割られてしまうなんて。
詰めが甘いと言うか何と言うか……。
この僕を駆り出させたのだから、もう少し楽しませてくれないと。
……まぁ、今回の事でユウさんに近付く事が出来たので、多目に見てあげますけど。
最近魔族の情勢も厳しいですしねぇ……。
無防備なユウさんを見ながらそんな事を思い、僕は彼女の髪を梳くように撫でた。
───すると。
「…………ん」
「あ」
しまった……。
起こしてしまっただろうか?
思う内にも、徐々に覗く蒼い瞳。
瞼がゆっくり……ゆっくりと開き、そして───。
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