───ふと。
柔らかな感触が髪を撫でた様な気がして、私の意識は眠りの底から抜け出した。
目覚めて仰向けになれば少し気まずそうなゼロスの顔と、ざわめく木の葉。
それにその間から覗く青空が見てとれる。
「すみません、起こしてしまいましたね」
「ん……大丈夫。ちょっと寒くなってきたから目が覚めただけ」
「あぁ…風が出てきましたもんね」
草や木が風に揺れ動き、寝ていた身体には少し肌寒い。
私はゼロスから離れ立ち上がると、ぐぐっと天に向かって腕を伸ばした。
それから膝を借してくれたゼロスに向き直り、お礼を言う。
「ゼロスのお陰で久しぶりにぐっすり寝れたみたい。ありがとう」
「……あ……いえ」
「さてと、それじゃあそろそろ帰りましょうか」
太陽の傾きから推測すると、どうやら私が眠りに就いてから小1時間程しか経っていないみたいだけど、あまり遅いとリナさん達に心配をかけてしまう。
やる事なす事めちゃくちゃだけど、あぁ見えてリナさんは意外と心配性だ。
面倒見も良いし。
そうじゃなかったら、あの異色のメンバーをまとめる事は出来ないだろう。
本人に言ったら顔を赤くして全力で否定しそうだけど。
そんな事を思いつつ歩き出す私に、後ろから疑問が投げかけられた。
「………その前に一つ良いですか?」
「ん?」
私は顔だけで振り向き、その後の言葉を促す。
ゼロスはどこか納得いかなさそうな顔をして続けた。
「ユウさんは僕をどう思ってるんですか?」
その何とも表現しずらい微妙な問いに、私は聞き返す。
「…………どうって?」
「僕の事……信用してるんですか? してないんですか?」
「してないよ」
前にも言ったでしょう?
冗談めかしてそう言えば、彼の眉は理解できないと言うように顰められた。
「……それならどうして」
「どうしてゼロスの前で無防備になれたのか?」
「はい」
「そうね、きっとゼロスは寝首を掻くような卑怯なことはしないと信じてるから……かな?」
「信用していないのに?」
「『信じる事』と『信用する事』は似ていて非なるものでしょ?」
信じるとは、疑わないこと。
信用とは、受け入れること。
「ですが……本質は変わらないはずです」
「そうね……ならきっと、私はゼロスを信じたいのよ」
あなたには理解できない事かも知れないけれど。
私はゼロスから視線を外し、真っ直ぐ前を見据えた。
広がる青と緑。
空はどこまでも続き、また、大地も果てしなく続く。
途端、一陣の風が吹き抜け、私はなびく髪を押さえながら呟いた。
「信用はしてないけど……───」
「ぇ……? ユウさん今なんて?」
草木のざわめきに私の言葉は飲み込まれ、ゼロスは聞き返す。
けれど私はそれには答えず、
「ねぇ、ゼロス。一つだけ約束して」
「……何ですか?」
風がおさまり、再び静寂が訪れた丘で、私は彼に背を向けたまま言葉を紡いだ。
こんなこと、正面切ってお願いなんか出来ないから……───。
だから、私はこの時のゼロスの顔を知らない。
そして───。
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