「あたしに犯罪者の濡れ衣着せるなんて、あのポコタって言う小動物生意気なのよ!」
先日のひと騒動───魔力ブースト版の竜破斬を放った後、リナさんはポコタと名乗った小動物にまたも逃げられ、怒りを爆発させていた。
どうやらそのポコタさん?は魔道戦車を造った張本人らしく、さらには光の剣のレプリカまでも製造していたらしい。
そんなとんでも小動物であるポコタさんは魔道戦車を盗んだ人物を止めるために、戦車を破壊して回っていたのだとか。
しかし詳しい話を聞こうとしたところで、リナさん逮捕に執念を燃やすワイザーさんが乱入し、彼に気を取られている間にポコタさんはどこかへ行ってしまい事の経緯は分からぬまま───なのだが。
「ランチセット10人前、早食い勝負だって」
「負けた方が勝った方の勘定、全額奢るんだと」
とある町のとある食堂で、それは繰り広げられていた。
テーブルの上に所狭しというより山盛りに積み上げられた食事を、時にナイフやフォークも使わず手掴みで、時に相手の妨害をしながら口に運ぶ少女と青年。
言わずと知れた、リナさんとガウリイさん。
「勝負となると目の色変わるんですから……リナさんもガウリイさんも」
「全く、自分が置かれている立場を分かっているのか」
「分かってないんじゃないですかねぇ……」
食堂の壁に貼られたお尋ね者の張り紙。
そこにはリナさんとガウリイさんと思しき顔が描かれていた。
まぁ、あまりにも凶悪な表情で描かれているので、知らない人が見たら同一人物と結びつけるのは少しばかり困難ではありそうだが……。
「よっしゃー! これで最後ーっ!」
離れた席で傍観する私達の呆れを置き去りに、リナさんの声が店内に響き渡る。
見れば嬉々として骨付き肉にフォークを突き刺す彼女の姿。
ガウリイさんの方はリナさんからの妨害の為か一人前近くの差があるようだ。
「勝利はあたしの為にあるっ!」
高らかに勝利宣言をし、あーん、とお肉にかぶり付こうとするリナさん───が、しかし。
突如として入り口から飛んできた鎖の長い手錠が彼女の左腕に嵌り、注意が逸らされた。
「あ?」
「そこまでだ。リナ=インバース」
そこに佇んでいたのは特務捜査官のワイザーさん。
彼はもう片方の手錠を自身の腕に嵌めると、にやりと笑ってみせた。
何と言うか、懲りない人である。
「またおっちゃんかい」
「ワイザーさん!?」
「ちっちっち、どうせならルヴィナガルド王国特務捜査官ワイザー=フレイオンと呼んでくれたまえ」
驚きの声を上げるアメリアさんに、指をふりふりしながら所望した彼は、指名手配書を掲げながら言う。
「観念して縛に付け。極悪非道の凶悪犯リナ=インバースっ!」
「だから誰が極悪非道よっ!?」
まなじりを吊り上げ抗議するリナさんの声に、辺りがしんと静まり返った。
しかしそれも数瞬の事で、すぐにお店の中にざわめきが広がる。
「り、リナ=インバースだって?」
「口から怪光線を出して盗賊どもを一掃するって噂のっ!?」
「額から触角が伸びて辺りのハエを捕食するってあのリナ=インバースかっ!?」
「やべーぞ。うかうかしてたら頭から食われちまうぞっ!」
口々に騒ぎながらお店を出ていくお客達。
私としては支払いは済んでいるのか気になるところだが、勿論リナさんはそれどころではない。
「こらーっ! 言うに事欠いてなんつー噂話をっ!?」
「ふっふっふっふ、流石、この私が流布した正確無比の情報だ。既に一般市民の隅々にまで行き届いている」
「って、あんたが噂の張本人かっ!」
一体どの辺りが正確無比なのか。
まぁ、言った所でどうなるものでも無いだろうけど。
「ワイザーさん違うんです、こう見えてもリナさん一応ちゃんとした人間なんです!」
「だから濡れ衣だって言ってるでしょうがっ!」
フォローなのかディスっているのか判断に困るアメリアさんの言葉に、しかしリナさんはツッコむこともせずワイザーさんに怒りをぶつけた。
どうやら噂の方が腹に据えかねたらしい。
ちなみにその隣でガウリイさんは真面目な顔で黙々と食事を続けていたりする。
そして、そんな事など一切お構いなしに話を進めるのが得意な特務捜査官のワイザーさんは、やはり今回もこちらの話は聞いちゃいなかった。
「リナ=インバースっ!」
「ん?」
「お前を連続ペット誘拐事件で逮捕するっ!」
びしぃ!と指を突きつけ宣言するワイザーさんに、私達の頭の上に疑問符が浮かぶ。
「はぁ?」
「連続ペット?」
「誘拐事件?」
「リナさんが?」
「あーん、勝ったぁっ!」
あぁ、若干一名、こちらにもいたようだ……話を聞かない人物が。
「あ゛ああああああああっ!」
10人前の食事を食べきり立ち上がるガウリイさんに、すっかり勝負を忘れていたリナさんの絶叫が店内に響く。
何と言うか、ご愁傷様としか言いようがない。
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