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「たくっ、どういう事よっ!? 一度ならずも、またこんな真似をっ!」



どんとテーブルを叩きつけ、相対するワイザーさんに怒りをあらわにするリナさん。

一先ず勝負の事は置いておき、誘拐事件の経緯を聞こうという事になったのだが……。



「どういうもこういうも、世に悪をなす極悪非道な犯人を、近所の奥様方に切れ者と評判のこの私が逮捕しただけの事だ」



ワイザーさんに淡々と切り返され、リナさんはぐうの音しか出ない。

せめてもの反抗なのか、何処からともなく取り出したハンマーで手錠の鎖を叩くも、余程頑丈らしく断ち切れそうになかった。



「無駄だ。それはドラゴンの馬鹿力でも切れない特殊合金製の手錠だ」



それを見ていたワイザーさんは余裕の表情である。

苛立ち紛れに彼女は鎖を噛み千切ろうとし始め、これには心配したアメリアさんが、リナさんの気を静めようと側に歩み寄った。



「落ち着いて下さいリナさん、これもきっとこの前みたいに何かの間違いです」

「またあのポコタが、お前に新たな濡れ衣を着せたのかもしれんな」

「そうよ、そうに決まってるわ!」



ゼルガディスさんの言葉に、リナさんは鎖を噛みしめながら同意する。

が、勿論ワイザーさんにそんな反論が通じる訳も無く。

彼はドンと片足をテーブルに乗せると、豪語する。



「証拠ならちゃんとあるぞ? それはお前がリナ=インバースだからだ! この世にこれ以上の証拠かつ罪状はない!」

「まぁたそれかーいっ!」



怒声と共に解き放たれた右ストレート。

それは見事ワイザーさんに直撃したのだが───鎖で繋がれていた所為でリナさんもろとも吹っ飛ぶ事になったのだった。










「いくら可愛いからってアタシのトムちゃんを攫うだなんて、なんてひどい犯人なのっ!?」

「うちのジェシーを返してくれるのなら、全財産投げうってでもっ!」

「身代金はお望みなだけお支払いします! ですからボブをっ! ウチのボブをっ!」



というのが被害者達のお言葉らしい。



「どうだ、被害者の家族もこう言ってるんだ。さっさと自白した方が裁判の時の心象も違……」

「って、被害者とか裁判とか全然意味わかんないから! 全く」



ワイザーさんを足蹴にし、彼の言葉を遮ったリナさんは本日何度目とも知れぬ怒りを爆発させた。

その様子を見ていたゼルガディスさんが冷静に分析する。



「金持ち連中が飼う高級ペットが次々と行方不明……確かに面妖な事件だな」

「うぅ、飼い主さん達、可哀想です」

「なぁにがウチのボブよ、泣きたいのはこっちだっつうの」



涙ながらに同情するアメリアさんと、やさぐれたように呟くリナさん。

ちなみに話についていけなかったのか、はたまたお腹がいっぱいになったからなのか、私達のテーブルに移動してきていたガウリイさんは気持ちよさそうに寝ていたりする。

そんな中、足蹴にされたワイザーさんがテーブルに手を付きながら、よろよろと起き上がり、



「交渉決裂か……犯罪者の捻じれた心の扉を開けるのはかくも難しい……」

「交渉決裂って、て言うかそもそも犯罪者じゃないし!」

「これだけ()いても被害者の気持ちが分からんとは……巨額の報奨金を払おうとまで言っている被害者達の悲しみさえもっ」

「だからぁ、いくら報奨金貰おうと……えっ! お金っ!?」



吐き捨てる様に呟かれた報奨金の言葉に、リナさんの目が輝きに満ちた。

それを見ていた私の中で沸き上がる、一つの予感。



「つまりそれって、ペットの誘拐犯を捕まえればお金が貰えるって事?」



尺取虫の様に仰向けにテーブルの上を這い、俯くワイザーさんの顔の下まで移動したリナさんは確認を取る。



「まぁそういう事になるなぁ、しかしお前には無理だ。自分で自分を捕まえる事など出来んからな」



対してワイザーさんはニヤリと笑いながら、リナさんの言葉を否定した。

しかし、そう言われてハイというような彼女なら、今までの私の苦労は半分以下になるだろう。

案の条リナさんはやる気を(みなぎ)らせ、



「面白いじゃない。よっしゃー!」



言って左手を突き上げながら起き上がったリナさんに顎を殴られたワイザーさんは、再び地に沈んだ。

……あれはワザとやっているんだろうか。

そんな私の疑問も、続くリナさんの言葉にかき消される。



「こうなったらあたしが犯人じゃないって証明してやろうじゃない」

「証明だと? 悪人が偉そうに。出来るものならやってみるがいい」

「やらいでか! 見てなさい、連続誘拐事件の真犯人。あたしがこの手で捕まえて身の潔白を証明してみせるわっ!」



一見、売り言葉に買い言葉のように見えるやり取りだが……。



「身の潔白と言うよりは……」

「金だな」

「ですね」



やはり面倒な事になったと、私は一つ小さな息を吐いたのだった。

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