ずらりと並べられたクリスタル・ケースの中にうごめく、奇妙な肉の塊。
コレが元は何だったのか。
正直、考えたくもないし、見ていて気持ちの良い物ではない。
「やっぱり、ここは合成獣の実験工場だったのね」
「よく分かったな」
部屋に入り、辺りを見回す私達にかけられた声は部屋の奥から聞こえてきた。
見れば黒いマントに身を包み、フードをかぶった魔道士ふうの男の姿。
「勝手に人の家に上がり込んで無礼な連中だと思っていたが……」
「勝手にペットを連れ去る人に無礼とか言われたか無いですけどね」
私のツッコミに、辺りの時が止まる。
が、それも数瞬の事。
私の言葉は聞こえなかったことにしたようで、彼は気まずさを振り払うように咳ばらいをし、
「こ、コホン……あの数の見張りを易々倒すとは中々の使い手の様だ」
「どういたしまして。真犯人の登場よ、ワイザー」
言ってリナさんが特務捜査官さんの反応を待つも返事は返ってこなかった。
「ワイザー?」
それもそのはず。
先程彼女が吹き飛ばしたせいでワイザーさんは地面に倒れたままなのだから。
「どうやら気絶してるみたいですね」
「だあぁぁぁぁぁぁぁっ!? 何でこういう時だけちゃんと気絶するかなぁっ!?」
返事がなく、辺りをきょろきょろと見回していたリナさんに告げると、彼女は絶叫した。
そしてその怒りの矛先を、目の前の魔道士に向ける。
「とにかく、あんたの所為でこっちはとんだとばっちりよ! 合成獣の材料集めに、金持ち連中のペットを誘拐なんてするから!」
「そこまでお見通しか」
「もち。同じキメラでも合成する材料で出来は全然違うもんねぇ? より純粋で強いキメラにしやすいって事でしょ? あたしの趣味じゃないけど」
「ふ、手厳しい。しかし実物を見れば、君達も気に入ってくれるだろう」
言いながらこちらと距離を取った魔道士は、扉の前で立ち止まると、その顔に歪んだ笑みを浮かべた。
そうして、扉の奥から現れたのは像や鹿、熊などが合わさり牙や角が不自然に生えた複数体のキメラ。
彼はその前に立ち、ばさぁっとマントを広げて自信満々に胸を張る。
「これでも元は可愛い愛玩動物だ。さぁ、攻撃できるかな? 妻を捨て、子を捨て、魔法研究一筋に幾星霜……」
「それは捨てたんじゃなく捨てられたのでは?」
言ったその途端。
魔道士の表情が引きつった。
更に彼はダラダラと汗を掻き、次第にその瞳に涙を浮かべ始める。
気のせいか、後ろに佇むキメラ達が気遣わしげに魔道士を見つめているように見えるが……。
彼はしばらくの沈黙の後。
やはり私の言葉を聞こえなかった事にしたようで、震える声を大にして、
「……と、とにかく! 今こそ! 我が、悲願たる、完璧な合成獣、キメラの、力を、発揮、する、時が来た! 行けぇっ、ポチ、ブチ、ミケっ! 」
と、こちらに向かい合成獣をけしかけてきた。
───しかし。
「火炎球っ!」
「轟風弾!」
「あぁっ、私のポチがっ!」
「火の矢っ!」
「烈閃槍!」
「ブチっ! ララっ! ミケっ! あぁ、ハチまでもっ!」
あっけなく私達の呪文で返り討ちにあい、魔道士は悲痛な叫びを上げた。
「元が金持ちのペットってだけでちょっとムカつくのよね。まぁ、お金がかかってるから手加減してるけど」
「見た目が可愛かったら躊躇もするんでしょうけどね……」
地に倒れたキメラに寄り添い、心配そうにしている魔道士を見ながら口々に言う私達。
彼は見れば気に入ると言っていたが、動物本来の可愛さを失っているキメラを攻撃する事に躊躇いは無かった。
「大人しく観念した方が身のためですよ?」
「ふっ、ふふふっ……だが、切り札はまだある」
投降を呼びかける私に、けれど魔道士はゆらりと立ち上がると、両手を広げつつ声を張り上げ、次のキメラを呼び寄せる。
「出でよ、デス合成獣!」
数瞬、沈黙が落ち───続いて地面が揺れ始める。
緊張が走る中、
ごがぁっ!
床を壊しながら現れたそれは、私達の身長を優に超る巨大な合成獣だった。
「これぞ研究の成果、究極の生物兵器であり、悪魔の化身だ」
「ふん、大層なこと言ってくれて……火の矢!」
───が、しかし。
先程のキメラには効いた火の矢は、今度のキメラには通用しなかった。
「防御魔法ね」
「その通り! さあ、歯向かうものは全て抹殺するのだ! デス合成獣タロよ!」
こちらの呪文を封じたと思い込んだ魔道士は、嬉々として命令を下している。
が、こちらの手札は火の矢や火炎球等の精霊魔法だけではない。
「ふん、魔法が効かないってのはちょっと面倒ね」
「はっはっはっは、どこの誰だか知らんが、このわたしに盾突こうというのが、そもそもの間違いなのだ」
「なぁに言ってんの、盾突くってのはねこういう事よっ!」
言ってリナさんが次の行動に出ようとしたその時、
「おおーらぁーっ」
聞こえてきた掛け声に、私達は動きを止めた。
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