「え?」
聞き覚えのある声に困惑したのも束の間。
衝撃が部屋全体を襲い、バランスを崩した私は慌ててその場にしゃがみ込んだ。
どうやらその原因は壁一面を破壊したせいらしく、その壁を破壊した犯人は、湖で見た大クラゲだった。
「何故ここにジロが?」
それを見た魔道士は疑問の声を上げ、
「まぁいい、タロとジロであの生意気な娘達に必殺の一撃を……うわっ」
しかし、必殺の一撃をお見舞いされたのは彼の方だった。
自分の支配下にあると思っていたクラゲにいきなり攻撃され、魔道士は反応する間もなく吹き飛ばされる。
更に大クラゲは触手を振り回し、タロと呼ばれた合成獣をも吹き飛ばしてしまった。
ピクリとも動かない魔道士とキメラ。
目の前で起きた突然の出来事に、私とリナさんは惚けてしまう。
そこにのんびりとした声がかけられた。
「おう、リナ、ユウ。何やってんだ?」
「ガウリイ?」
「ガウリイさん?」
見れば楽しそうに大クラゲの上に乗ったガウリイさんの姿。
湖で尊い犠牲になったはずの彼が何故ここに?
未だ現状が理解できず、呆気にとられたままガウリイさんを眺めていると、
「あ、ゼルとアメリアも一緒だぞ。来る途中で見つけてさ、ほら」
その言葉に合わせる様に大クラゲが口を開き、そこから何かを吐き出した。
涎まみれで地面にうち捨てられたそれ等は、力なく声を発する。
「うぅ、助けてくれたのは嬉しいけど、こんな目に合うなら……」
「あの場で果てた方がマシだった……」
口々に悲壮感たっぷりに呟く何か───アメリアさんとゼルガディスさんを見ながら、ご愁傷様ですという気持ちと共に、あの場に残らなくて本当に良かったと心から思う。
もし彼女達と一緒に居たら、今頃私もあの二人の仲間入りをしていた事だろう。
それは流石にごめんである。
そんなこちらの心情を知るはずもないガウリイさんは、大クラゲの上に乗ったまま、
「いやぁ、湖ですっかりコイツと意気投合しちゃってさぁ。なぁんか分かり合えるって言うか、こうして見ると結構可愛いだろ? こらぁ、何照れてんだよ?」
と、触手をぷにぷにしながら嬉しそうにコミュニケーションをとっている。
「流石クラゲ頭……」
「まぁ、おかげで助かりましたし」
良かったとしましょうと言った、その時。
かたり、と近くで音がした。
振り向けば倒れていた筈の魔道士が逃げていく姿。
「あっ、こら、待ちなさいっ!」
「往生際の悪い……」
言って私達が追いかけようと足を踏み出すと、魔道士の前に立ちふさがる人物が居た。
「そこまでだ」
「っ!?」
それは今まで気絶していたワイザーさんだった。
彼は堂々とした態度で魔道士を見据えると、ここぞとばかりに自身の役職を告げる。
「貴様の悪事はこの特務捜査官ワイザー=フレイオンが、しかと見届けた」
「インスペクター? 特別捜査官? 馬鹿な、ここにそんな奴が来る訳がない。ふっ、そうとも、私を逮捕なんて出来るはずがない」
……ん?
魔道士の言葉に引っ掛かりを覚えるが、その自信がどこから来るのかという疑問は直ぐに消えた。
「私にはルヴィナガルド王国の侯爵が後ろ盾になっているのだから……ふふふふふふっ」
「ルヴィナガルドの侯爵が?」
「なるほど、そういう事か」
それまで力なく地面に突っ伏していたアメリアさんとゼルガディスさんが、魔道士の言葉に反応し顔を上げる。
しかし、
「見苦しいぞ。最早どこからも助けは来ない。全ては終わったのだ」
「くっ……」
それ以上魔道士が何かを言う前にワイザーさんが進み出て、彼に手錠をかけた。
そうして私達を見ると、にやりと口端に弧を描く。
その様子を見ていたリナさんは「やってくれるわね」と、小さく呟いた。
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