ペット誘拐事件の犯人を捕まえ塔の外に出ると、既に夜は明け、霧も晴れていた。
魔道士が生活の為に使っていたと思しき木の小舟に彼を乗せ、それに続こうとしたワイザーさんにリナさんが声を掛ける。
「とんだ猿芝居に付き合わせてくれたもんねぇ」
「何の事だ?」
彼はこちらを振り向くことなく、素知らぬフリをする。
「つまり、いくら特別捜査官でも侯爵お抱え魔道士の悪事を暴くなんて、まして逮捕なんて無茶、出来っこないわ」
「その前に、上から圧力がかかるのは必至ですもんね」
往々にして、どの時代、どの組織でも権力に逆らえない者と言うのは多い。
「でも、その無茶をあたしにさせれば全てなし崩しで捜査、逮捕出来る。リナ=インバース逮捕の一環ならね」
「湖でリナさんの邪魔をしたのは真犯人に逃げられない様にする為、ですよね? あの大クラゲを撃退出来る人物となると、相当の力を持っている証明に他なりませんから」
「ビビッて逃げられたら元も子もないもんねぇ……そうでしょ? ご近所の奥様方にも評判の特務捜査官さん」
「さあ? どうだか」
私達の確信にも似た推理に、ワイザーさんは肩を竦めて見せる。
しかし、こちらをチラリと振り向いたその目は、しっかりと笑っていた。
「ふ、食えないおっちゃんね」
無能捜査官を演じ、捜査協力をさせた挙句、自身は手を下さずにきっちり犯人逮捕。
どうやら、見誤っていたのはこちらだったようだ。
「となると、あの気絶も演技だったんですかね?」
小舟に乗って岸を離れるワイザーさんを見ながら疑問を零せば、リナさんは「さぁ?」と肩を竦めた。
───ちなみに。
アメリアさんとゼルガディスさんは余程大クラゲに気に入られたらしく、触手で捕まえられ、べろんべろんと舐め回されていたりする。
「だからわたしは食べられませんってばぁ」
「良かったなぁ、ジロが二人の事気に入ったって」
私達の後ろで繰り広げられていた、行き過ぎた愛情表現。
それを大クラゲの頭の上でうつ伏せになり、足をぶらぶらさせながら微笑まし気に見ているガウリイさんの言葉に、アメリアさんが直ぐ様反論する。
「気に入らなくていいですっ」
「何で俺がこんなゼラチン質ごときに……」
かくして───。
大クラゲが満足し、涎まみれの二人が解放されるのは、もうちょっと先の話である。
あとがき
役者。
弁舌や才知、かけ引きなどにすぐれている人。
役目にある人。役人。
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