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「酷い、酷い、あんまりです……見損ないましたよ、ゼルガディスさん!」



ゼルガディスさんが宙を舞った後。

昨夜もお世話になった山小屋へと場所を移した私達。

そこで動けなくなっているポコタさんを椅子に座らせながら、アメリアさんは言う。

対してゼルガディスさんは少し離れた所に横になり、氷嚢(ひょうのう)を赤くなった頬に当てながらぼやいた。



「酷いのはどっちだ……お前は、手加減てものを知らないのか?」

「ゼルガディスさんとリナさんにだけは言われたくありません」



その言葉に私は苦笑を浮かべながら、双方を見やる。

総じてこのパーティはやり過ぎな感が否めないが、今回ばかりはそれも致し方ないように思う。

片や自身の欲望の為、片や自身の信念の為。



「まぁ、取りあえず、どちらも大事に至らなくて良かったです」



そう言って一先ず治療しましょうと取り繕えば、アメリアさんはそうでした、とポコタさんを抱き寄せ、



「今、毒を抜いてあげますからね」



と、麗浄和(ディクリアリィ)を唱えた。

体内を解毒する呪文で、流石に強力な毒は排除できないが、弱い物であれば完全に消し去ることができる。

それを見て、私はゼルガディスさんに治療(リカバリィ)をかけた。



「ゼルガディスさんもあんまり無茶な事したらダメですよ?」

「………………」



治療の合間にそう忠告するも、彼は面白くなさそうに顔をしかめてしまう。

困った人だ事。

まぁ、大人しく治療を受けているだけ良しとしよう。

そう思いながら呪文を唱えていると、先に復活したポコタさんが安堵の溜息を吐いた。



「ふぅ、助かった……っ!?」



けれどアメリアさんの腕の中に納まっていたポコタさんは自身の状況を把握すると、顔を赤らめ側にあった椅子へと飛び移って威嚇し始める。



「ちっ、余計な事を……どけ、ユウ、アメリア……ぅっ」



それを見たゼルガディスさんは私を遮るように起き上がり───けれど、まだ完全では無かったらしく立ち眩みを起こして床へと沈んだ。

流石アメリアさんの正義の鉄拳。

ちょっとやそっとの治療では回復しないようだ。



「もうっ! いい加減にして下さい! いがみ合っていても何の解決にもなりません! ゼルガディスさんはどうして、もっと冷静に話し合おうとしないんですか?」

「ふん、こんな奴と話し合うことなどない」

「ダメですっ! 理解無き所に正義無しっ! わたし達が今すべきは素直に心を開き、互いを理解し合う事なんです!」



素直に……。

その言葉に、ゼルガディスさんを直視し、無理だなと瞬時に判断する。

そもそも、こういうのは少なからず性格に左右される。

普段から素直というのには程遠いゼルガディスさんには難しいだろう。

対して『こういうの』が苦じゃないアメリアさんはキラキラとした眼差しで、理想を語った後ポコタさんに向き直り、



「で、ポコタさんは一体どうしてリナさんに、魔道戦車破壊の濡れ衣を着せようなんてしたんですか?」

「濡れ衣? ふん、知らないね。あの女が疑われたんなら、それは単にアイツの日頃の行いが悪いんだろ」

「あ、そうでした。それじゃあ、えっと……そもそもどうして、ポコタさんは魔道戦車を壊そうなんて思ったんです?」

「どうしてって、そりゃ……」

「そりゃ?」

「うっ……」



純真無垢な瞳で顔を近づけられ、ポコタさんは小さく唸った。

その頬はほんのり色づき、アメリアさんには多少なりとも好意を持っている事が窺える。

……このまま何事も無く丸く収まれば良いんだけどな……。

頭の隅でそんな事を考えていると、言い淀む彼にアメリアさんは再度尋ねた。



「それは?」

「あ、あんな物騒な物を野放しにしといたら、危なっかしくてしょうがないだろっ?」

「……っ!」

「魔道戦車を盗んでった奴に悪用される前に、俺が破壊してやってるだけだっ!」

「悪用される前にって……それって世界平和の為? つまり正義、ですよねっ!?」



小さな腕を組み、胸を張るポコタさん。

一方、その言葉に感銘を受けたらしいアメリアさんは拳を握りテンションを上げる。

それを聞いていたゼルガディスさんは、未だ地面に伏したまま不貞腐れたように問いかけた。



「調子の良い事を言うな、それなら魔道戦車を盗んでいったって言うのは誰なんだ? そいつは何を企んでいる?」

「そ、それは……言えない!」

「どうして言えない?」

「そ、それも言えるか!」

「ふ、ほうら見ろ」



顔を背け突っぱねるポコタさんに、勝ち誇ったように笑うゼルガディスさん。

何と言うか、とっても大人げない。

そんな彼に呆れた眼差しを注ぐ私だったが、ポコタさんの言葉に視線を戻す。



「と、とにかく俺は、一刻も早く、全ての魔道戦車をぶっ壊さなきゃならないんだ! こんな所で……」

「もたもたしている暇はありませんね?」

「は?」



椅子の上に立ち上がり、決意を示すセリフの先を取られたポコタさんは、言った相手を仰ぎ見る。

そこに立つのはやる気を(みなぎ)らせたアメリアさんの姿。



「行きましょう、ポコタさん! 共に正義をなす為、魔道戦車を探すのです!」

「う、うおぅ?」



あまりの熱い眼差しと勢いに、使命に燃えていたポコタさんですらひるんでしまう。

それほどまでにアメリアさんはやる気に満ち、輝いていた。



「そうっ! これまでの誤解を乗り越え、大いなる正義と愛の力で結ばれた、わたし達が目指すはただ一つ! 手に手を取って魔道戦車に立ち向かい、やがて掴むは世界の平和ぁぁぁぁっ! それも全ては、今日、この一歩から! あぁ、何て心の温まる、いい話でしょう……」



山小屋を飛び出し、背の高い木の上に立った彼女は言って正義に酔いしれる。

何と言うか、これは再び面倒事の予感しかしない。

彼女達は面倒事を起こさないと生きていけないのだろうか。



「よーし、やるぞぉっ! 山よ、川よ、アメリアの、正義の雄たけびを聞けーっ!」

「何すかね、あの女……って、いつの間にあんなとこに?」

「おーい、良いから下りてこーい」



遠い目でアメリアさんを見る私の横で、ゼルガディスさんが彼女に呼びかけるが……。

アメリアさんの陶酔は、彼女の気が済むまで続いたのだった。

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