「そりゃあ今だってぶっちゃけ宿で横になりたいですけど……」
「相変わらずお前さんは体力がないな」
いや、それも多少は眠たい原因だけど、そうなんだけど……。
「そんなんでよく家出しようなんて思ったな」
「……それはまぁ、その場の勢いと言うか、成り行きと言うか、物の弾みと言うか……」
「つまり考えなしだったと」
「ぅぐ」
的確な言葉に、今度はこちらが言葉に詰まる。
確かに深くは考えていなかった。
あの時は何となくあの場に居たくなくて、何ならちょっと困らせてやろう位の気持ちだった。
そんな子供じみた行動に恥ずかしくなり視線を下げると、突然頭をやや乱暴に撫でられる。
驚いて視線を上げると、ゼルガディスさんはぶっきらぼうに、けれど優しさを含んだ視線でこちらを見ながら、
「……前にも言ったが、何かあれば言え」
と、そんな事を口にした。
その気遣いにじわじわと嬉しさが込み上げ、思わず口の端が緩む。
何だろう、この感じ。
懐かしくて嬉しくて、そんな幸福感に浸りながら、それを隠すことなく頷けば、ゼルガディスさんに更に力強くわしわしと頭を撫でられた。
「ちょ、ゼルガディスさんっ!?」
「お前さんが悪い」
「何でっ!?」
私の疑問も何のその。
彼は髪が乱れるくらいに撫で続けた後に、ようやく私を解放してくれた。
「もう、突然どうしたんですか?」
「だからお前さんが悪い」
「だから何でっ!?」
髪を梳かしながら尋ねても、要領を得ない回答が返ってくるのみ。
もう、と口にしながら、じとんと見やれば、くくっと笑われた。
だから何でだ。
そう思うものの、これ以上の追及は無意味だろうと諦め、小さく息を吐く。
そうして釈然としないながらも前を向き、先程の沈んだ気持ちが薄れている事に気付く。
その事に感謝しつつも、お礼を言うのは何となくはばかられ、ちらりと隣を窺えば、彼はすました顔で眼下を眺めていた。
「決着がついたようだな」
「ぇ?」
言われてゼルガディスさんの視線を追えば、そこには破壊された水路と魔道戦車?の姿がある。
どうやら先程から続いていた一進一退の争いは、アメリアさんとポコタさんの勝利で幕を下ろしたらしい。
「いくぞ」
「あ、はい」
ゼルガディスさんの掛け声に慌てて返事をして、その場を飛び立つ。
そうして私達はアメリアさん達の近くへと降り立ったのだが───
「アメリア、これは一体どういう事? あんたいつから小動物の手先になったのよ?」
破壊された魔道戦車?から這い出してきたリナさんが、勝利を喜んでいたアメリアさんに食って掛かっている。
「え? リナさん?」
「……って事は」
「魔道戦車を盗んで悪用しようとしてたのはリナさんだったんですねっ!? 見損ないましたよ、リナさん!」
「なんでそーなんの! これはねぇ……」
アメリアさんに詰め寄られたリナさんは負けじと言い返そうとするも、「偽物か」と言うゼルガディスさんの言葉に二人は動きを止め、こちらを見やった。
「茶番だな」
「偽物? ちぇ、くだらねぇ」
壊れた戦車を見ながらゼルガディスさんが言えば、事の次第を理解したポコタさんは面白くなさそうに吐き捨てた。
どうやらこの魔道戦車もどきはポコタさんを誘き出す為にリナさんが造りだしたみたいだ。
道理で今までの魔道戦車と造りが違うと思ったら。
リナさんが言っていた作戦と言うのはこの事だったのだろう。
その行動力は呆れるを通り越し、一周回って尊敬の念すら抱く。
けれど当事者のポコタさんがそんな風に思えるはずも無く、「とんだくたびれ儲けだぜ」とそっぽを向くと、そのまま翔封界を唱え、この場を後にした。
それを見す見す逃すリナさんではない。
「あ、こらポコタ! 下りてこいっ! 戻って尋常にあたしと勝負よ!」
「冗談じゃねぇ! 用が無いとわかったら、こんな所にいつまでも付き合ってられっか! あーばよ!」
「ちょっと! ポーコータぁっ!」
言ってリナさんはなりふり構わず走り出す。
「わしらの村……」と泣いている村民たちに「ワイザーが直します!」と無責任に応えながら。
「今度こそ絶対逃がさないんだから!」
あぁ、今日もベッドにはありつけなさそうだ。
叫ぶリナさんの声を聞きながら、私は深い溜息を吐いたのだった。
あとがき
追行。
衝動の追いかけっこ。
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