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目深に被っていたフードがはらりと落ち、視界が開ける。

その中で常はニコニコとしている瞳が大きく開かれるのを見て、私の思考は束の間、停止した。








今日は朝からついていなかった。

昨夜は野宿だったこともあり、体のあちこちが痛いし、睡眠不足。

お陰で体調は万全と言い難い。

それでも軽くストレッチをして体をほぐし、先に起きていたリナさん達への挨拶もそこそこに顔を洗おうと川辺に近付く。

そこで水面に映った自分の姿に固まる事、数瞬。

ぴょこんと立った髪の毛が、頭の上でゆらゆらと風になびく。



「……直らないし」



少量の水をつけ押さえつけるものの、体とは相反し元気な前髪はぴょこんと起立する。

ここはいっその事、水浴びしてしまった方が早いかもしれない。

出発まではまだ時間があるし、と水浴びの準備をしようと立ち上がった瞬間。



づどがぁぁん!

背後で爆音が響いた。

慌てて振り向き音の元へ駆け行けば、リナさん達が臨戦態勢で、ある一点を見つめていた。

その視線の先には、赤いマントを羽織った小さな姿。

そして、その両手にはリナさん達が用意していた朝ご飯が握られている。

そこからはもう、ここ最近のルーティンワークとして成り立っている追いかけっこの始まりだった。

その際、頭の上で揺らぐ違和感に応急処置としてフードをかぶり、怒りを爆発させながらポコタさんを追いかける彼女達に置いていかれない様に私も何とかその後を追う。

途中何度か見失ったものの、気配探知機───もとい、驚異の野生の勘を持つガウリイさんからは逃れられない。

そんなこんなで夜になっても追いかけっこは続き、私の気力と体力は底をつきかけていた。



「こらーっ! そこの小動物ーっ!」

「しつけぇなぁっ!」



森の中を行きながら、声を張り上げるリナさん達。

私に至っては喋る気力も無く、ただただ足を動かす事に集中する。



「待ちなさ−いっ!」

「待てぇっ、ポコタぁっ!」

「待てと言われて待つ奴がいるかよ!?」



既に彼女達から遅れ、背中が見えるか見えないかの距離まで離されているこの状況で、それなりに離れている前方から聞こえてくる会話に、私は信じられない思いで前のやり取りを見つめた。



「アンタのお陰で、こっちはどんな目にあってると思ってるのよ!?」

「お前らに構ってる暇はないんだって! 今日は特にっ!」



何でこの人達平気で走り続けてるんだろう……。

何であんなに大きな声が出せるんだろう……。

そう思う内にもリナさん達は呪文を唱え、ガウリイさんが歪んだ剣でポコタさんを迎え撃つ。



「問答無用の振動弾(ダム・ブラス)っ!」



が、ポコタさんは華麗に攻撃をかわすと、近くの茂みへと姿をくらませ───

そこでようやく、本日の追いかけっこが終わりを迎えてくれた。



「どこ行った!?」



立ち止まり、周囲を見渡すリナさん達に遅れる事、数分。

近くまで走り寄った私は、そのまま崩れる様にその場にへたり込んだ。

翔封界(レイ・ウィング)の呪文が使えれば、ここまで体力を削られずに済んだのだろうけど、如何せんあの術はこういう障害物の多い場所では不向きなのだ。



つ、疲れた……。

もうやだ、一歩も動きたくない。

このまま寝たい。

とにかく横になりたい。

何も考えずに全てを放り出してしまいたい。



しかし、そんな私の思惑など微塵も理解できない体力お化けの彼女達は、油断なく辺りを窺っている。




「こういう所だとポコタさんを捕まえるのは難しいですよぉ」

「泣き言言うんじゃないの……アレ?」



アメリアさんの嘆きに反論したリナさんだったが、何かに気付いたのか、不意に疑問の声を上げた。

その声に思わず顔を上げ、辺りが白くなり始めている事に気付く。



「霧が出てきやがったなぁ」



ガウリイさんが呟く内にも徐々に視界は悪くなっていく。

そんな中。



「そこだっ!」



突然声を上げたゼルガディスさんは、自身の金属の糸のような髪を引き抜くと、近くの茂みへと立て続けに投げ放った。

この霧の中、気配を感じ取ったのは流石だが、彼の思い掛けない行動に皆の目が点になる。



「いつの間にそんな技を?」

「そこに居るのは分かっている。大人しく出てきてもらおうか?」



リナさんのもっともな疑問を無視し、淡々と茂みの奥へと声を掛けるゼルガディスさん。

しかし───。



「いやぁビックリしましたよ」

「何っ!?」

「その声はっ!?」



予想に反し聞こえた、のんびりとした場違いな声に、私達は息を呑んだ。

声の主は茂みを揺らしながらこちらへと近づき───。

片手にポコタさんを、もう片方に先程ゼルガディスさんが投げ放った髪を手にしながら現れ、



「こんな物を投げつけて……危ないじゃないですか」



全然、これっぽっちも驚いていない、ニコニコ笑顔でそう(うそぶ)いたのだった。

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