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霧の中に隠されたここは、タフォーラシア。

訳あって数か月に一度だけ道が開かれる、魔道都市と呼ばれたサイラーグの末裔が数百年前につくった国だそうだ。

ポコタさんに導かれながら受けた説明に、私はフードをとった状態でもう一度辺りを見回した。

日が落ちている所為もあって、建物を覆う木々がより一層陰鬱とした空気を漂わせている。

また、ゼロスの言葉によれば、『タフォーラシア、一夜にして忽然と消えた伝説の街』と呼ばれているのだとか。

と言うのも、ある時この国にデュラム病という疫病が蔓延したのだが、当時その病を治す手立てが無く、疫病が広がる事を恐れた近隣の国々は救いの手を差し伸べなかったらしい。

そんな時、一人の魔道士がこの国を救おうと訪れた。

けれど、その魔道士の目の前で国は霧の中へ消えた為、そんな風に言われているのだとか。



「人々の間に残っているのは、そんな言い伝えです」



そう締めくくったゼロスに、ポコタさんはそうじゃ無いと反論した。

この国は自分から姿を消したのだと。

途中まではゼロスが言った通りだが、この国は滅んだのでも、消えたのでもない。

そう言ってポコタさんは大きな建物の前で立ち止まると、扉を魔術で開け私達を中へと招き入れた。

アメリアさんの頭の上に陣取ったままのポコタさんの迷いのない指示で建物内を進むと、通路に明かりがひとりでに灯っていく。

流石は魔道都市と呼ばれたサイラーグの末裔が造った建物なだけはある。



「当時はデュラム病を治療する手立ては無く、滅ぶのを待つだけだった。でも一人の魔道士が救いの道を示してくれた」



この国の説明を聞きながら歩き続ける事、数分。

辿り着いたのは大きな扉の前だった。

ポコタさんは先程と同様に魔術でその扉を開けると、中に入るようにと促す。

月明りさえ差し込まないせいで真っ暗なその場所は、中の全容は分からないものの声の反響具合から大きな部屋……と言うより、大きな空間であることが窺い知れた。



「ここはもしかして」

「もとは地下墓地として造られた場所だ」



説明しつつ、術を唱えたポコタさん。

明かり(ライティング)の術で照らし出されたその光景に、私達は息を呑んだ。

そこには数えきれないほどの人々が、クリスタルの様なもので閉じ込められている姿があったのだ。

左右の壁はもちろん、床下にも所狭しとクリスタルが規則正しく並べられている。

驚きに固まる事、数秒。

口火を切ったのはゼロスだった。



「これは、冥王様が使う技にちょっとだけ似ていますね」

「冥王って、あのフィブリゾ?」



彼の言葉に、リナさんが即座に反応を示す。

言われて再度辺りを見回してみると、確かにこの光景には覚えがあった。

あの時はサイラーグの人々の魂をクリスタルに封じ込めて、冥王が操っていたが……。



「安心しな、死んでる訳じゃない。みんな眠っているだけなんだ」



こちらの会話に気付かなかったのか、ポコタさんは言って説明を続ける。

疫病の治療が見つかるまで魔法の眠りにつく事にし、それと同時に国を覆う霧の封印をかけ、人の目から隠したのだと。



「ちょっと待った。さっきお前はこの国を襲った疫病はデュラム病だと言ったな? だとすれば、その治療法は数年前に確立されているはずだ」

「え、そうなの?」

「この人達はもう、疫病を恐れる必要はないんですか?」

「じゃあ何でこの人達はまだ寝かされてるんだ?」



ゼルガディスさんの言葉に、当然の疑問が投げかけられる。

それを聞いていたポコタさんは拳を握りながら困惑を滲ませた。



「確かに、デュラム病の治療法は見つかった。でも、今度はこの封印をかけた魔道士の行方が分からなくなっちまった!」

「あらぁ、上手く行かないもんだわね」

「無責任な奴も居たもんだな」



そんなリナさんとゼルガディスさんの言葉に、ポコタさんは怒りをあらわにし、



「何も知らない癖にっ! 誰も助けてくれなかったこの国に、あの人だけが手を差し伸べてくれたんだぞっ!」

「でも、そいつを見つければこの国の人は目を覚ますんだろ?」

「何て人なんです?」

「ふん! お前らみたいなチンピラ魔道士じゃ足元にも及ばない立派な人なんだぞっ!」

「ちん、ぴら、魔道士っ!?」



ポコタさんの言い分に、リナさんがまなじりを釣り上げる。

が、彼はそれに構う事なく、この国の恩人の名を口にした。



「その人の名はレゾ。盲目の賢者、赤法師レゾって言うんだ」



───と。












あとがき

賢者

深い知恵で有名。
精神的で哲学的な信頼のおける人物。

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