「火を消すわよ!」
リナさんの指示が飛び、アメリアさんと一緒に消化弾を唱える。
あまり効果は高くないが火を消す呪文で、リナさんと3人がかりで消火にあたると、幾ばくもせずに炎は消え───
「誰がこんな事を……」
「ここの封印まで破られてやがる」
「ここは?」
「王の館だ」
煤けた門をくぐり入り口まで来ると、扉は半開きになっていた。
ポコタさんは迷わず館へと足を踏み入れると、声を大にして呼びかける。
「何者かっ!? 王の館で狼藉を働くものはっ!」
「ちょっと、ポコタあんた?」
只者ではない事を窺わせる物言いに、リナさんが声を掛けるも彼は答えない。
代わりに返ってきたのは、聞き覚えの無い男の人の声。
「お前も来ていたか、ポコタ……いや、ポセル=コルバ=タフォーラシア王子」
「えぇっ!? 王子っ!?」
いきなりの呼称にリナさんが驚きの声を上げる。
けれど、そんな戸惑いなどお構いなしにポコタさんは辺りを見回しながら声を張り上げた。
「やっぱりお前か、デュクリス!! どこだっ!? 俺の前に姿を見せろっ!」
「その様な大声を出さなくとも、俺はここだ」
そうして現れたのは、胸甲冑姿の───
「……猫人間?」
「虎だ虎っ! 白虎っ!!」
私の呟きに、デュクリスと呼ばれた獣人はポコタさんの相手をするのも忘れ、抗議の声を上げる。
そのせいで辺りに漂っていた緊張感が霧散したような気もするけど、きっと気のせいだろう。
「てっきりトラ猫なのかと」
「まぁそう思うのも無理はないわよね。ぶっちゃけトラ猫でも白虎でも見栄えあんまし変わらないし」
「違うっ! 断固として違うっ!」
リナさんには同意されたが、獣人さんには何やら確固たるこだわりがあるらしく、力いっぱい否定された。
「デュクリス、お前……」
しかし、そんな私達のやり取りもポコタさんの耳には届いていなかったらしく、放心状態で呟く。
その呆然としたような呟きに、我に返った獣人は仕切り直すかのようにコホンと一つ咳払いをし、ポコタさんへと視線を移した。
「久しぶりだな、ポコタ」
「やっぱりお前だったんだな、あの魔道戦車を盗み出したのは」
怒りを滲ませた問いかけに、獣人が口の端を笑みの形に歪ませる。
「ふっ、あんな出来損ないの試作品でも高く買い上げてくれる奇特なお方がいてな」
「何だとっ!?」
その返答に冷静さを無くすポコタさん。
そこに「ふふふふふ」と、場違いな女の人の笑い声が響いた。
声の聞こえた方へと視線をやれば、入り口の陰から現れる、扇子で顔を隠しながらこちらへと近づいてくる襞襟ドレス姿の人物と、それに付き従うメイド服姿の人物。
「な、何なんです、この人達!?」
その異様な取り合わせに、アメリアさんが戸惑うのも無理はない。
「獣人に女の子、それに……」
「これがこの国の王子のなれの果てか? 何とも珍妙な」
「何だとっ!? 誰だお前っ!?」
扇子を下げ顔を見せた中年女性は、尊大な態度で前へ出るとポコタさんを見下しながら笑みを浮かべる。
「これでも相手は一国の王子なれば、こちらから名乗らねば無礼に当たるか。私はジョコンダ。ルヴィナガルド王国で侯爵領を預かる身」
「オゼルと申します。お見知りおきを」
貴族であることをひけらかしたジョコンダ侯爵に続き、メイド姿の女性が名乗って頭を下げる。
獣人の方はポコタさんの知り合いみたいだけど、一体全体なんだって貴族とメイドまでもが封印されていた館に居るのか。
そんな疑問を抱いたのは私だけではなく、リナさんがコソコソと声を潜め、
「ちょっと、ポコタが王子とかって言い出したと思ったら、今度はあのキツそうなおばちゃんが侯爵だって?」
「こうしゃくって何だ? お偉いさんか?」
「貴族の爵位のうちの一つですよ。侯爵なら序列で言えば上の方ですが……」
ガウリイさんの疑問に答えつつ、チラリと自称侯爵を窺い見る。
切れ長のつり目がちな瞳に、ひっつめお団子ヘア。
扇子にドレスに不遜な態度。
まさに『キツそう』のお手本のような人物である。
「それにしても王子に貴族にメイドに獣人……不思議な取り合わせではありますよね」
「大丈夫です! わたしだって王女なんですから、あっちには引けを取りませんよ!」
「そうそうって、そこじゃないっ!!」
胸を張るアメリアさんに、リナさんがツッコむ。
……まぁ確かに、色んな意味で有名な凄腕の魔道士と身体能力だけは人間離れした剣士、合成獣の魔道剣士にアクティブな聖王国の王女様。
そこに魔族の彼が入れば、あちら以上に不思議な取り合わせではあるけど。
………………。
よくついていけてるな、私。
自分の適応力になかば感心していると、ポコタさんが呆れた視線をこちらに向け「お前らな……」と力なく呟く。
と、そんなこんなふざけながらも話の流れを整理して、リナさんは変てこりんな集団に視線を投げると、堂々と対峙した。
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