デタラメ(1/4)

青空の下、穏やかな風が土と潮の香りを運んでくる。

先程できた大きな大きなクレーターと、そこに流れ込む海水の匂い。

それを屋根も壁も吹き飛び、半壊以上になった建物の中で嫌と言うほど堪能しながら、私は目の前の動向を見守る。



「一体、何が、どうして、なぁんで、どうなっちゃってんのよ!?」

「そう言われましても……わたし達にも、何がどうして、何でどうなちゃって、アレがアレしたものか……」



リナさんの前に座らされたアメリアさんが困り顔で弁明するが、いまいち……どころか、全然要領を得ない。

しどろもどろになる彼女は、隣に座る人物へと助け舟を求めた。



「ぜ、ゼルガディスさんからも何か言って下さいよぉ」

「いや、おれに言われても……何が何して何ともかんとも」

「ごちゃごちゃ言わないっ!」

『はいぃっ』



怒気を含んだ一言に、アメリアさんとゼルガディスさんの背筋が伸びる。

それを見ていたガウリイさんが、怒れるリナさんと彼らの間を取りなそうとするも、あえなく撃沈。

一緒に仲良く正座をしている辺り、これ以上怒らせない方が良いとの判断なのだろう。

そんな彼らを一瞥し、リナさんは続けた。



「じゃあ、ひとつひとつ聞いていくわよ。まず、あたしを逮捕だなんて言い出した、あのワイザーとかっていうおっちゃんとはどんな関係なの?」

「えーと、まずですね。我がセイルーン王国に、ルヴィナガルド王国から正式に要請がありまして。リナさんの居場所を教えて欲しいと……」



書面を差し出し説明するアメリアさんに、リナさんは怪訝そうな声を出す。



「ルヴィナガルド王国の正式な要請?」

「仕方なかったんですよぉ。国家間の正式な要請となれば、無下に断る事は出来ないですし。それで、リナさん達と繋がりの深いわたしが出向く事になったんです」

「ふーん」

「おれはその警護の名目でアメリアの親父(おやじ)さんから……いや、この場合は国王代行と言った方が良いのか、ともあれ正式に依頼されたんだ」



続けて経緯を語るゼルガディスさん。

事情が事情だっただけに、二人とも断れなかったようだが……。

そもそも、どうして王国が個人の行方を捜していたのか。

それを訪ねると「目的は、国家機密という事で教えて貰えませんでした」との答え。



「その時点でおかしいと思わなかったの? 何で単なる美少女天才魔道士のあたしに、国家なんてのが関わってくんのよ」

「いや、それは……」

「何よ?」



目線をそらし言い淀むゼルガディスさんに、リナさんは訝しげに問い返す。

それに答えたのはアメリアさんだった。



「り、り、リナさんなら良くも悪くも、国家規模の珍事を起こしても不思議はないと、セイルーン議会が判断しちゃいまして……」

「セイルーン王家としても国家規模の珍事ともなれば、何かしらの情報は握っておきたいという事になったらしい」



つまりそれは、リナさんなら何か取り返しのつかない事をやってのけてもおかしくはないという王国の正式な見解という事。

一同の中に、何とも言えない沈黙が落ちた。

ただ一人、事態を分かっていないガウリイさんが「国家規模の珍事って?」と疑問を口にするが、馬鹿正直に答えられる者は一人もいない。

そんな事をしようものなら、後でどうなるか……。



ぴーひょろろろ。



静かな空間に響く、トンビの鳴き声がやけに大きく感じた。

チラリ、とリナさんに視線を移せば、仲良く旋回している二羽のトンビを見上げているのだが……。

逆光になり、こちらからは表情が窺えない。

それでもかろうじて見える口元が、笑みの形に吊り上がり───




「今度行ったら、滅ぼすかぁ?」



─── セ イ ル ー ン。



ポツリと漏れた、物騒極まりない言葉。

それに慌てたのはセイルーンのお姫様だった。



「うわああぁああぁあぁっ! ま、待って下さいよぉ! ほんとに国家規模の事件になっちゃいますよっ!?」

「それも止む無し!」

「うわぁぁぁぁぁあああっ!?」

「ついでに、ルヴィナガルド王国もぶっ潰すぅうううっ!」

「ま、待てリナ! 早まるなっ!」

「それも駄目ですよぉ!」



過激な発言に慌てふためく、アメリアさんとガウリイさん。

そんな中、更なる厄介事が扉の向こうからやってきた。



「聞いたぞ、リナ=インバース。国家転覆の企み、このワイザー=フレイオン、しっかと聞いた」



開かれた扉から現れたのは、先程までリナさんを追いかけまわしていたワイザーさん。

というか、壁も何もあったものじゃないこの状況で、扉から現れる意味はあるのだろうか?

そんな疑問を打ち消すように、ゼルガディスさんが疲れをにじませ呟く。



「また面倒なのが……」

「いや違うんです! これはあくまで言葉のあやで……」

「いやいや、この耳で確かに聞いた」



冷や汗をダラダラ掻きながら狼狽(うろた)え取り繕うアメリアさんだったが、そんな言葉で諦めるようなら初めからリナさんを追いかけ回してはいないだろう。

それを証明するかのように、ワイザーさんは本日何度目とも知れぬ「逮捕」の言葉を口にした。

それに対し、黙っていないのがリナさんである。

「やかましぃっ!」と怒りを爆発させ、一気にワイザーさんに詰め寄ると、事の次第の説明を求める。



「とにかく、きちんと話を聞かせてもらいましょうか!? あたしを納得させた上で、それでも逮捕するって言うんなら、このリナ=インバース逃げも隠れもしないわよ」

「あ、うむ」



リナさんの勢いに押され、思わずと言った様子で頷くワイザーさん。

そんな彼に、釘を刺す事も忘れない。



「その代わり、『単に捜査官のヤマ勘!』だとか、『あたしであるだけで逮捕!』だって言うんなら、暴れさせてもらうからね」



リナさんの本気ともとれるその言葉。

と言うか彼女を怒らせるとどうなるか、先程まざまざと思い知らされているワイザーさんは「う、うむ」と顔を引きつらせながら、こくりと神妙に頷いたのだった。

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