「ほらほら、早く歩かないと日が暮れちゃうわよ?」
岩肌の露出する山道を行きながら、リナさんは先頭を歩くワイザーさんを急かす。
何故、突然山登りをしているのかと言えば、それは魔道戦車を破壊した真犯人を見つける為で。
「分かってはいるが、竜破斬を打つ謎の小動物なんてのが本当にいるのか?」
「あたしだって信じらんないわよ。謎の小動物なんかに見せ場を奪われるなんてぇ!!」
「うぅ、根に持ってる根に持ってる」
「結局はそこか」
「とにかく、この身の潔白はキッチリ証明させてもらうわ!」
話をしながら苦も無く歩みを進めるリナさん達の最後尾。
息も切れ切れに坂道を行くのはこの私。
「大丈夫ですか? ユウさん」
「だ、ダメです……」
「相変わらず体力のない奴だな」
「何ならオレがおぶっていくか?」
「……いえ、が、頑張り……ます」
ガウリイさんの申し出を断り、何とか足を進める。
と、そこへゼルガディスさんが、やれやれとでも言いそうな視線を寄こしながら、
「お前さんの場合、浮遊で付いてきた方が疲れないんじゃないか?」
「…………………………。」
あぁ、そう言えば。
その手があった……。
膝に手を吐き息を整えると、私は早速呪文を唱え始める。
歩くスピードしか出ない術だけど、今はそれで事足りるので何の問題も無い。
術を制御しながら、ふよふよと漂いついて行く。
それを見て安心したのか、ガウリイさんは確かな足取りで歩を進めながら先頭陣に問いかけた。
「で、オレ達はどこに向かってるんだ?」
それに対し、ワイザーさんの「ようやく見えて来たぞ」との答え。
私の空の旅が、ものの数分と持たずに終わりを迎えた。
「特務捜査官のワイザー=フレイオンだ。捜査に協力を要請する」
「は、司令官に取り次ぎ致します」
それから程なく。
山の上に建てられた砦にやってきた私達は、ワイザーさんの後を行きながらコソコソと話す。
「随分と物々しいなぁ……」
「ひとつの砦にこれだけの兵器を集めていると言うのは、近隣の国と何か起こしたのか……それとも」
「それとも?」
「これから起こすつもりなのかしらね?」
辺りを見渡せば武装した兵士が待機し、砦の至る所に大砲が設置されている。
自衛の為だけというのは考えにくい。
そうこう言っている内に、扉の前へと移動していた私達は司令官と呼ばれた人物の案内で、砦の中へと通された。
「なぁ、リナ。こんな所になにかあるのか?」
「そうですよ。さっきは聞きそびれちゃいましたけど、何なんですここは?」
「さっきおっちゃんが言った事覚えてる? あの魔道戦車の連続爆破事件が起こってるって」
「確かに言ってたな」
「あたしの潔白を証明するには、その犯人を捕まえるのが簡単で、唯一の方法でしょ?」
「まぁ、確かに」
「だから、次に狙われそうな獲物の場所に案内してもらったのよ」
「なるほどな。しかし、犯人は何の目的でそんな事を……」
ゼルガディスさんの問いに、リナさんは肩を竦める。
小動物───リナさんはそう表現していたが、遠目に見えたその姿は異色の一言。
長い耳らしきものの先端が人間の手の様になっており、その手の様なもので呪文を打っているようだった。
と言うかそもそも普通の小動物は魔法を使わないし、赤いマントも羽織らない。
そんな存在そのものが奇抜な生き物の事に思いを巡らしていると、ひと際大きな扉の前で立ち止まった司令官さんが注意を促した。
「ご注意ください。扉が開きます」
そうして、そこから姿を現したのは───角の生えた何とも言えない形の魔道戦車。
「う、牛?」
「今度は牛かよ……」
「あんまりデザインセンスは良くないわね……」
「この手の物のデザインをとやかく言ってもなぁ」
呆れを滲ませたガウリイさん達の言葉に、リナさんが魔道戦車へと近づき、
「うーん……まぁ、しばらくは、この牛を見張る事になるんだから───」
と、その時。
彼女の言葉を遮るように、突然後ろから火炎球が襲い来た。
「危ないっ!」
リナさんの声に反応し、回避する私達。
そのまま直進した攻撃は魔道戦車へと直撃し、辺りに放電し始める。
「おっちゃん、逃げてっ!」
「ふん、わかってるさ」
魔道戦車の近くに居たワイザーさんに避難を急き立てるも、彼は緩慢な動きで振り返り───
どぐおぉぉぉぉんっ!
響く爆音、吹き荒れる風。
思わず目の前に手をかざし、それらをやり過ごす。
そうして爆発が収まり見た先には、爆発に巻き込まれたワイザーさん。
「力の限り巻き込まれてるなぁ」
「だから逃げろって言ったのに……無駄にカッコつけてるから」
サムズアップの姿勢のまま、ぷすぷすと焦げた彼を見ながらガウリイさん達が呟く。
そんな中、爆発の音を聞きつけたのであろう兵士達が、次々に駆け寄ってきた。
「て、敵襲かっ!?」
「衛生兵っ! 司令官殿っ!」
爆発に巻き込まれた人達に慌てた様子で声を掛け、
「それよりもあそこを見ろ」
「っ!?」
ゼルガディスさんが指差した先。
入り口に立った小さな影が、去っていくのが見えた。
「ユウとゼルとアメリアは巻き込まれた人を助けてあげて! あたし達はアイツを追うわよ!」
「おう!」
「わかりました!」
「任せろ」
「はい」
皆に指示を出した後、すぐ様駆け出すリナさん。
いやはや、何とも元気な話である。
街中でドンパチを繰り広げ、山を登り、そして今また真犯人を捕まえるべく走り出すのだから。
と、呑気に傍観している場合ではない。
私は指示された通り、手近にいる怪我人に回復呪文をかけるのだった。
ALICE+