僕の憂鬱と甘い香り

 部室の前で一度大きく深呼吸をして、勢いよくその扉を開ける。
「ただいま戻りましたー!」
「遅い! ノート取りに行くのに何分かかってるわけ!」
「す、すみません! あ! マフィンもらって来ました!」
「ほんとに何しに行ったんだよ! 腹立つな!」
 予想通り、月島さんはブチギレだ。
「いや、あの、お詫びにってくれて……」
「ちょっと意味わかんないんだけど」
「ちょっと待ったぁああ!」
 苛立ちで顔を歪める月島を押しのけて、田中さんとノヤさんが詰め寄って来る。
「おい日向! マフィン貰ったって誰からだ!? まさか、まさか女子から貰ったのか!?」
「そ、そうっす……」
「なにー!? 翔陽おまえ……!」
「いや、あの、家庭科部の皆さんから試食をお願いされて!」
 なんかこわい。顔がこわい。
 二人の迫力に圧されながらも必死に説明する。
「そ、それで引き留めてしまったから、待たせた皆さんにもお詫びにって……」
「と、いうことは! その女子の手作りお菓子は俺たちも貰えるということか!?」
「は、はい!」
「でかした翔陽!」
「ていうかお前、よくあの女の園に入って行けたな……」
「いや、緊張したっす!」
「だろうなぁ」
 ノヤさんが深々と頷く。
「たまたま同じクラスの子がいて誘ってくれて……」
「ちょっと! 勉強しないなら帰るけど!?」
 また月島の怒りが爆発したところで大地さんがまぁまぁ、と割って入ってくれた。
「取りあえず、日向は勉強しような。この差し入れは皆でありがたく頂こう。日向、同じクラスに家庭科部の子がいるならお礼を言っておいてくれないか? バレー部みんなからって」
「はいっす!」
「ほら、みんな1個ずつもらってけー」
 大地さんが紙袋からマフィンを取り出すとみんなも集まってきて、一つまた一つと紙袋の中身が減っていく。
「……あれ? 1個余る?」
 最後にマフィンを取った菅原さんが、余った1つを持ち上げる。
 確かに人数分しかもらってないはずなのに……、と考えてはっとした。
「あ、人数聞かれた時にとっさに自分も数に入れちゃったかも……」
「図々しい! お菓子食べて遅れて来たくせにさらに自分の分も貰ってきたわけ!?」
 ぼそりと言ったおれに、またもや月島の怒りが爆発する。
「いや、わざとじゃ……」
 結局この日、月島さんの怒りが収まることはなかった。
 そして余ったマフィンはというと、おれ以外のメンバーでじゃんけん大会が開かれ、見事縁下さんが勝ち取ったのだった。





―――――
あとがき


やっと連載1本目が掲載できました。

私は日向さん好きなんですが、あんまり他のサイトさんではお話を見かけません。
需要ないのかな……。
かわいいのにな。
たまに狂気を感じるけどね。それもまた彼の魅力です。

2017.03.15
みつ

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