僕の心臓ときらきらオレンジ

 扉が閉まると、ふいに田中さんが呟いた。
「聞いたか、今の……」
「あぁ、龍……。どうぞ無理はなさらずに、だってよ……」
「あんな、あんな清楚で可愛らしい子が作ったお菓子が俺たちの体内に……!!」
 実際にはミョウジさんの作ったものだけじゃなく他の家庭科部員が作ったものも混ざっていたが、田中さんとノヤさんは歓喜に震えていた。
――いや、他の部員さんが清楚で可愛らしくないとかじゃなくてね!
 誰ともなしに心の中で弁解する。
――でも……おれはミョウジさんが作ったお菓子を食べたんだよな。
 そう思うと、胸がじわりと熱くなった。
「はいはい騒がない。確かに言葉遣いも綺麗で、きちんとした子だったけどな」
「あの子が日向と接点あるとか信じられない」
「どういう意味だよ月島!」
「そのまんまの意味だけど?」
「はい、お前らもその辺にしときなさいね。せっかくだから休憩にして、差し入れを頂こう」
 紙袋を覗き込むと、きらきらとした橙色が目に入った。
「オレンジゼリーだ!」
 おれの言葉に、菅原さんと縁下さんも袋を覗き込んだ。
「お! いいねぇ! 夏って感じ!」
「ちゃんとスプーンも入ってる」
 カットされたオレンジが乗ったゼリーは、まるでお店で売ってるやつみたいだ。
「いただきます!」
 ふるふると揺れるそれを口に含むと、爽やかな甘酸っぱさが広がる。
「おいしい!」
「うまいな」
「女の子の手作りだと思うと尚の事うまいな」
「そうだな」
 和やかな空気が流れる中、早々にゼリーを平らげた田中さんが勢いよく立ち上がって「補習懸念組よ!」と叫んだ。
「いや、お前もだろ」
 縁下さんの突っ込みをスルーし、田中さんが続ける。
「さっきの清楚女子の言葉を聞いたか! 俺たちは、期待されている!!」
 そして、田中さんはにやりと不敵に笑ってみせた。
「これは、赤点なんか取ってる場合じゃないよなぁ!?」
「おう!!」
 絶対に、合宿に行く。
――それで、期待に応えるんだ!
 期待に応えたいと思った時、はにかんだように笑ったミョウジさんの顔が浮かんで、おれは慌てて甘酸っぱいゼリーと一緒に飲み込んだ。





―――――
あとがき

1話に比べると、この2話は大変な難産でした……。
書いては消し、構成を変え、ってことを何回繰り返したことか。
やっと完成して安心致しました。
現時点で物語は6月ですが、構想は9月あたりまでできていて、8月あたりがいちばん書きたいです。
先は長い……。

先輩の苗字は珍しいものにしたり、なるべく皆様のヒロイン名と被らないように配慮してみたのですが……。
もし被ってしまっていたら申し訳ありません。

2017.03.21
みつ

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