いつも通りを演じることは果たしていつも通りか
連れ立ってやって来たのはファーストフード店。三人は黙々とバーガーを頬張る。
何とも言えない空気の中、夜久が切り出したのはポテトも残り少なくなった頃だった。
「その、なんだ……。昨日からお前ら……えーと……黒尾とミョウジがなんか変だなって……」
「俺も、なんか空気が違うかなと思ってな……。夜久と二人で、黒尾と話してみようって事になったんだ」
夜久も、夜久に続いた海も、気まずそうに俯いている。
黒尾の心にゆらりと黒い感情が頭をもたげる。
「……まーな。何でだと思う?」
DT野郎共の言葉を信じたばかりに目出度く勘違い野郎になってしまった恨み、とばかりに意地悪な返し。
こんな態度はただの八つ当たりだと自覚しているけれど、今はそれを認められそうもなかった。
「えっと、その……告白、した、とか……?」
夜久が窺うようにしながら弱々しく答えるが、黒尾の意地悪な心はまだ満足しない。
冷たい一瞥をくれながら、またも意地悪な返しをする。
「で、その結果どうなったと思う?」
「え、えーと……」
夜久が助けを求めるようにチラリと海を見る。海は額に汗を浮かべながらもなんとか黒尾を見て、おずおずと口を開く。
「その、なんというか……うまく、いかなかった、のか?」
黒尾はもったいつけるように自分のドリンクに手を伸ばし、ストローで氷をガシャガシャとかき混ぜる。そしてそれを一口飲んでから、ゆっくりとその結末を口にする。
「そうだなぁ、『黒尾と付き合うとか考えたことなかった』、だってよ」
黒尾の答えを聞いた夜久と海の表情をなんと表現すれば良いだろう。なんとも形容しがたく、そして石にでもなったかのように微動だにしない。いや、出来ないのかもしれない。
二人の頭の中には、今まで自分が黒尾にかけてきた言葉がこだまする。
――今思えば、俺はなんて無責任な事を……!
「ごっ、ごめん!」
先に石から戻ったのは夜久だった。
「俺、勘違いして、黒尾を焚きつけるみたいなことをずっと……」
夜久はぎゅっと目を閉じ、その顔はまるで判決を待つ被告人のように蒼白だ。
夜久のその不憫な姿に、黒尾の心に渦巻いていた黒い感情が弱まる。
そんな思いつめた顔をされては、八つ当たりなんかできないじゃないか。
「まぁ、俺も勘違いしてたしな……」
黒尾は観念したように表情を和らげた。
「黒尾……俺も、ミョウジはお前を待ってるんじゃないかとか言って……」
「いーって。俺も、後は俺次第だって思ってたよ。恥ずかしいことにな」
「でも、ほんとになんて謝っていいか……」
「そうだよな……。だって、俺が焚きつけたせいで気まずい思いを……。あっ、お昼だって一緒に食ってるし! 俺、気が回らなくてごめん!」
「だからいーっつうの。今更だし、ミョウジだっていつも通り振舞うよう気を遣ってくれてんだろうし……」
「でも……」
「俺たち当事者が“いつも通り”を貫いてりゃ、そのうち“本当のいつも通り”になるだろ。だからまぁ、余計な気は回さずにお前らも“いつも通り”にしてくれたらありがてーな」
昨日お互い部活に来た時点で、若しくはお昼をいつも通り三人でとった時点で、黒尾とナマエは“いつも通り”を覚悟したのだ。今がどんなに気まずくたって、死にそうなくらい恥ずかしくたって、それが薄れる頃を信じてひたすらに何でもないフリをする。何もなかったフリをする。当事者がそう決めたのだから、外野があれこれすることは筋違いだろう。
夜久も海も、黒尾の言葉でそれを理解した。理解したとして、それで罪悪感が消える訳ではないけれど。
「わかった。……けど、ごめん」
「ほんと、悪かった」
「もういいって。恋愛経験ゼロのDT野郎共の言葉を信じた俺も馬鹿だったんだ」
「おい! 誰がDT野郎だ!」
「失礼だぞ!」
「へぇ、じゃあ経験がおありで?」
「そ、それは……」
「……黙秘する」
黒尾がにやりといつもの調子で笑うので、少しほっとする。
わいわいと言い合いをしながら、夜久と海とにはその軽口がありがたかった。
俺たちが気に病まないようにわざと軽口をたたく優しさが嬉しい、そう思うとつい笑顔になる。
夜久と海は、これから何かあったら黒尾の力になろうと心に決めた。
だから、黒尾が先程の台詞を軽口でなく本心から言ったということを二人は知らなくて良いだろう。
続
―――――
あとがき
なんて難産だったことだろう、Reverse!!3話。
全然筆が進まず困りました。
その上、謎の吐き気で私がリバースしまくるという事態に……。
今回はヒロインとの絡みが少なかったのですが、次回はヒロインがメインの話になる予定です。
2017.03.30
みつ