沢田くんの隣に並び賑やかな廊下を歩く。沢田くんが私を楽しませようとしてくれてるのは行動からも十分伝わってきて、確かに私もそこそこ楽しんでいる。けれど、ふとしたときに頭によぎるのは空条くんのことだった。これを見た彼ならこういうこと言うんだろうなぁ、とか、これは彼が好みそうな味だ、とか。気付けば空条くんのことばかり考えている。
思えばここ最近はずっとそうだった。空条くんはそこにはいないのに、何をするにも誰と話すにしても彼のことを思い出してしまうのだ。
ガコン。沢田くんが購入した缶ジュースを拾い上げるのをぼんやりと眺める。休憩がてら自動販売機に飲み物を買いに来たのだが、辺りは閑散としていた。私たち以外に人はいない。すぐ近くの体育館から賑やかな声が聞こえるから、きっと催しものに人が集まっているのだろう。
彼はひとつ購入したのち、そのままもうひとつボタンを押した。ガコン、
あ、と思ったときにはもう遅い。
「はい。赤木さんココア好きでしょ?」
「え、あ、お金……」
「いいのいいの!奢らせてよ」
ね?と念押されて、渋々受け取る。手渡されたココアはこの季節にちょうど良くて、じんわり温かい。沢田くんはここで飲みきってしまうつもりらしく炭酸のプルタブに手をかけた。
「いつも飲んでるよね」
「よく見てるね」
「まぁね。……あー、体育祭のときの話、覚えてる?」
彼はちょっと気まずそうに言う。私はそれには応えない。
「二人三脚で勝てたら〜ってやつ。今思えば二人三脚って何かダッサイなぁとか思うんだけどね。はは」
「……」
「俺ね、赤木さんが出ることになったから二人三脚に立候補したんだ」
さっきまでの明るい彼の面影はない。何かを決意するように真面目な表情をしている。その決意が何か、私は知っている。
「あの、さ。多分気付いてるかもしれないけどさ」
「……」
「俺。赤木さんのことが好きです。付き合ってほしい」
言われて、息が詰まる。構えていたのに実際に吐き出された言葉を聴いて、心臓が小さく跳ねる。そのまま数秒、その場はしんと静まり返った。ただただ彼が、私を真剣な瞳で見つめていた。……私は俯いてその瞳から逃げるようにして応えた。
「……ごめんなさい」
沢田くんの顔が見れない。今、彼はどんな表情をしているのだろう。「あー、やっぱり」と零す彼の声は意外にも穏やかだった。彼はその穏やかな声で続ける。
「分かってたよ、こうなること。……だって」
咄嗟に、いけないと思った。その言葉の続きを聞いてしまっては、私の中の何かが崩れてしまう。直感的にそう感じ取り顔を上げる。沢田くんは、優しく笑っていた。
「だって赤木さんは、」
今まで誰も言わなかったことだ。私が目を逸らしていたことだ。けれど、彼には言う権利がある。だから私には為す術なくそれを受け入れることしか出来ない。
「空条のことが好きなんだから」
あぁ、ずっとその気持ちから目を逸らしていたのに。
**
階段を駆けあがる。途中、先生の怒る声が聞こえたが気にも留めていられない。私の頭の中は真っ白だった。
あの後、沢田くんとは別れ私は屋上に向かっていた。行き場のない感情をどうにかしたくて、叫びたくてしょうがない。どうせ今日、彼は屋上にはいないのだからうるさくしたって怒る人はいない。
息も絶え絶えにようやく脚を止める。屋上へと繋がる扉の鍵はいつも通り壊れていた。ノブに手を掛け扉を開ける。ひゅうと冷たい秋の風が流れ込んで、そして。慣れ親しんだ煙草の香り。
そこには空条くんがフェンスにもたれ掛かり煙草を吹かしていた。