屋上の隅

私がこの漫画の世界にきて1年経ったけれど一向に帰れる気配はしなかった。そして未だにこの世界の"同学年"に慣れることもできていない。

なんていうか、合わないんだよなぁ。1つ年齢が違うだけでこんなにもギャップに悩まされるなんて思ってなかったよ。それに私元々年下得意じゃないです。

というわけで今日の家庭科の調理実習はサボってしまった。多分、作るのはクッキーか何かだ。だらだらとお喋りして作業が進まないあの空間は苦手だと思った。いや、年下だからお喋りするんじゃないだろうし、私と実際の同い年の子達が調理実習してもだらだらお喋りしちゃうだろう。高校生だもの、そんなもんだ。ただなんでかなぁ。1つ下だ、と意識してしまった途端自分が激しく浮いているように思えて、クラスでコミュニケーションを取らなければならない授業が嫌になってしまった。家庭科の調理実習もその1つ。

話は変わって。実はサボり、なんて初めてのことである。だからちょっとどきどきしてる。バレたらどうしよう、とか、背徳感とか。けどこの学校不良の先輩多いみたいだし私1人サボったところで……。はい、この話お終い。私、屋上に行ってみたかったの。学園モノの漫画で王道的なシチュエーション、屋上でサボり。あれは現実じゃ屋上には鍵がかかってるから叶わないけど、ほら。ここは漫画の世界だから空いている筈なのです!

目の前の屋上の扉のノブを回せばガチャリと音がした。やったね!もうすぐ始まる屋上ライフに思いを馳せて私は扉を開けた。

「…………」

ら、そこには先客がいた。その先客の空条くんは私がドアを開けると煙草を加えたまま不愉快そうに顔を顰めて(あれ、これメンチ切られてる?)こちらを見た。どうやらお邪魔しちゃったらしい。

空条くんは1年の時を経て、立派な不良に変化を遂げていた。なんていうか人ってあんなに変われるものなのだなぁ。1年生のときも会話なんてしたことこそなかったが、彼の好青年っぷりは人と話す機会の少ない私にですら耳に入ってきたというのに。しかしこっちの空条くんの方が紙の上で見慣れていたこともあってか、好感が持てた。

「えーと、なんかごめんね?」
「…………」
「あっ私本読んでるだけだから。隅の方いるから……」

かと言って私に屋上を譲る気はない。こんな広いんだし、少しくらい譲ってよね。会話は私が一方的に喋りかけただけで終了。沈黙は了解とみなす!私は空条くんを視線から外し、宣言通り屋上の隅で読書に勤しむのであった。

この会話もなにもない屋上の奇妙な空間は、1週間ほど続くことになる。