「……なんだこれは」
「学ランのお礼よ。あ、甘いもの嫌いだった?」
なら無理に食べなくていいよと言えば空条くんは首を振った。さっき作ったマフィンは受け取ってくれるらしい。良かった。
空条くんと屋上で会話しないまま1週間、この前初めて会話したときから更に1週間程経った。私は珍しく家庭科の授業に参加してきた。しかも調理実習の時間である。何故その私が珍しく調理実習に参加したかって、冒頭の台詞に至るのだ。
「すっごい珍しがられたよ〜。調理実習参加したの初めてだったわ。もうしないけど」
「料理は苦手か?」
「そうじゃなくて。だって私友達いないし」
空条くんの眉がピクリと動いた。空条くんは表情の変化が乏しいから感情がわかりづらいけど今回ははっきり分かる。意味がわからない、って顔してる。
「いやね、調理実習って友達とわいわいしてるでしょ?私あれ苦手なの。っていうか同い年の子と合わないと言いますか……」
「……くだらねー」
「私にとっては死活問題だよ!空条くんは不良だから一匹狼できるけどさぁ、私みたいなのが授業中にコミュニケーションを強いられることはとても辛いんだよ!?喋れる子がいればまた話は別なんだけど」
「うるせぇ」
つい熱くなって声のボリュームが大きくなってしまった。それに空条くんに詰め寄ってしまったため非常に鬱陶しそうな顔をされた。傷ついた、けど身体を離して今度は落ち着いて話す。
「ほんとに友達いないんだよ……いや、いらないんだけどさ。下手したら学校で話すの空条くんだけだよ」
またピクリと空条くんの眉が動いた。今度は私に感情は読み取れなかった。ただ何も言わずに私の方を見つめている。と、思ったらため息をつかれた。解せぬ。
「人の顔見てため息って酷くない?」
「……おれと会話するのもてめーぐらいだぜ」
「うん?そりゃ空条くん教室行かないし……あ、お互いに唯一の友達だね!って痛いッ」
友達、と言ったところで空条にデコピンをされた。声に出してしまうくらいには痛かった!そこから私は空条なんか知らない!と言い逃げ宜しく(もちろん冗談だが、)屋上を去ったのだった。
「……やれやれだぜ」
そして次の日。
梅雨に入ったらしく雨が降っており、今日は屋上に行けないな〜大人しく教室で過ごすか、と考えながら教室の前まで来ていつもより周りが騒がしいことに気づく。なんだと思い教室を覗けばそこには女子の視線と黄色い声を独り占めにしている空条くんがいた。
「えええ……」
なんでいるの。驚いて情けない声が出た。……これは話しかけたり近づけばファンに殺されるんじゃ、
「おい」
「あ、時すでに遅しだ」
「なんのことだ」
こっちの話だよ、と適当に誤魔化して私は自分の席についた。なんの因果か空条くんの前の席である。周りの空条くんファンが「なんで赤木さんが!」「あーんJOJO〜」とか更に騒がしくなった。こんだけうるさいのにガン無視できる空条くんの精神構造がよくわからないなぁ。ところで、
「なんでいるの?」
「おれのクラスだからだ」
「いや、そうなんだけど。なんで急に」
今まで雨で屋上が使えなくても教室には顔出さなかったのに。不思議に思って聞けば黙られて、ようやく口を開いてくれたかと思えば的外れな言葉が返ってきた。
「昨日の、美味かったぜ」
「え……あぁ、調理実習の?それは良かったけど、あの」
「また作れよ」
「……私家でお菓子作らないんだけど」
「おれがいればまた参加するんだろう。調理実習」
ーー喋れる子がいればまた話は別なんだけど。
「……そんなことも言ったね」
そこからの会話はなかった。次の調理実習がしばらくないことも、メニューが炒飯なことも空条くんに言いそびれてしまったけれどまぁいいか。
今日は良かったことが2つ。1つは憂鬱な教室が少し楽しく思えたこと。もう1つは私と空条君が友達だと分かったことだ。