こぼれる

綱引きも無事終わって午前の部終了。ちなみに勝ちましたぶいぶい。

ただ今昼食タイム。未だクラスのところには戻らずに体育館前で食べているのだけれど、隣に空条くんはいない。女子に呼び出されたのだ。アレだ、イベントの盛り上がりの雰囲気で押せば上手くいくかもしれないという女子側の算段だ。けど1つ言いたい。その人イベントで盛り上がってないから。煙草ふかしつつぼーっと眺めてただけだから。強いて云うならば、私が綱引きで踏ん張ってるときの阿呆面を見てたときの空条くんは輝いてたと思う。お気の毒だけれど告白は上手くいかないだろうざまあみろ。ご飯を食べてる隣でキャアキャアと騒がれて私は不機嫌だった。

暇になることを考えて持ってきていた小説を開く。暫く集中すること数分、頭上から声がかかった。

「こんなところで何してんのォ?」
「1人?オトモダチいねぇのか〜」

見るからに不良です、って感じのが数人。学ランを着ているところから体育祭には参加していないのだろう。スルーしようかと思ったけれど私は何人かは見覚えがあったし、向こうをそれを覚えていたらしい。

「あっお前、1回オレらのシマ勝手に入ってきたよな?」
「おーおー、そーだそーだ」
「ってかコイツ空条の女じゃねぇか」

あ、この流れはマズイ。空条くんは不良界隈でも有名だ。悪い意味で。当然色んなところから恨みを買っているのだろう。もちろんこの人たちだって例外じゃなくて……。空条くんの女なんて勘違いされてたら、

「空条には屋上取られた恨みがあってなァ〜……」
「まぁ、なんだ。面貸せや」

ほら、ロクなことにならない。

**

肩を抱かれて連れて行かれたのは体育館裏。特に抵抗はしなかった。痛いのは嫌だ。連れて行かれる間はぼーっと「体育館裏とかなんてベタな」とか考えていた。

自分でも余裕ぶっこいてるな、とは思う。この人たちは空条くんをおびき出したいが為に私を人質にしたいんだろう。だからきっと空条くんが助けに来てくれるだろう、なんて。私はそう信じていた。

「誰かカメラ持ってねぇ?」
「持ってるワケねーよ馬鹿」
「あ、俺持ってる〜。体育祭の思い出残すから〜」

ぎゃはははと下品に笑う。私は少し焦った。カメラ?カメラなんて何に使うんだ……。嫌な予感がする。そしてやっぱりその予感は当たるのだ。

「んじゃ、ちょおっとお写真撮らせてね」
「え、あ……!」
「大丈夫大丈夫、最後までやんねぇよ」

上まであげていたジャージのジッパーを降ろされた。左右から腕を抑えられて抵抗も出来ない。突然の事で情けない声が出た。

待って、待って、まって!何だって、何でこんなことに。そこまでするの普通!?そう思っている間に中に着ている体操服に手をかけられる。

「は、離してっ!」

やっと出た声は震えていてやはり情けなかった。当然、離してくれるはずもない。心臓がばくばくとうるさい。最悪の場合の展開が次々頭に浮かぶ。さっきまでの余裕はもうどこにもなかった。

「離して、離してよ!嫌、嫌だ離してやだ!!」
「チッ、うるせーな」

「たすけ……!くうじょ、く」

目をキツくつむる。その瞬間聞こえた、痛々しい骨が折れた音と悲鳴。突然腕が解放されたことで支えがなくなり立っていられなくなり、尻餅をついた。目を開けるとそこに居たのはやっぱり彼で、

「……よく分かったね、空条くん」
「てめーにしては珍しい叫び声が聞こえたからな。……暫くそこで座ってな」
「そうさせてもらうね……後は任せる」

そこからの展開はお決まりで。私は空条くんがばったばったと不良を薙ぎ倒していくのを眺めていた。

**

それから。空条くんがあの不良たちを顔の原型が分からなくなるほどに成敗した後、今後私たちに近づかないことを約束させたところで昼食タイムは終了。午後のプログラムが始まる時間になった。私はというとあんな出来事の後すぐに立ち直れるはずもなく、沢田くんとの二人三脚は代役を頼んだ。勿論、

「何で俺が空条と二人三脚!?」
「チッ。……振り落とされんじゃあねぇぜ」

空条くんに。いや、私が物事頼める友達なんて空条くんくらいしかいないし。二人三脚は空条くんが沢田くんを引きずる勢いで走ってぶっちぎりの優勝。そのままプログラムは順調に進み空条くんが出た混合スウェーデンも私たち白団の勝ち。結果、白団の勝利。私のクラスはMVP賞も貰っていた。

件の、二人三脚で優勝した沢田は「今回の勝ちは空条に持ってかれたから!話はまた今度!!」とのこと。……今度も何もバレバレなのだけれど。


帰り際に私は空条くんを呼び止めた。

「ほんと、ごめんね空条くん。その……」
「二人三脚か」
「それもだけど……体育館裏の。なんで、場所分かったの」
「アマに呼び出されたのがすぐ近くでな」
「そっか。……ごめん。本当、迷惑かけて、ごめ……」

「……そういう時は、礼を言うモンだぜ」
「っ、うん、ありがと……。いつも助けてくれて、ありがとう……っ」

今更あの時のことを思い出して怖くなって、泣いてしまった。いつも彼に助けて貰っている自分が情けなく思えて涙が止まらなかった。

空条くんに改めて感謝の気持ち……ありがとうって伝えなきゃ。

空条くんは私の涙が止まるまで、何も言わずそばに居てくれた。