09
金田一とゆりは、前から仲が良かった。
それに俺も金田一は嫌いじゃない。だから、金田一とゆりが話していても何も疑いもしない。だけど、最近仲が良すぎる。
俺とゆりが付き合っている事を話した途端、今まで以上に二人が話している所をよく見る。
中学の時、影山に対して思っていた気持ちとは違う。金田一が俺らのことを気にかけて行動している事ぐらい理解出来ている。
「最近、金田一、ゆりちゃんと仲良くないか?」
「もしかして、ラブだったり?なぁ、国見なんか知らねえの?」
「…同じクラスって事は知ってます」
「それはみんな知ってるよ」
あぁ、嫌だ。
三年生たちが金田一とゆりの距離感に疑っている。前から仲が良くて、あの距離感が普通なはずなのに、疑ってしまいそうになる。
視線を反対側の壁際にいる金田一とゆりに送るとゆりが俺と二人でいる時のように、頬を赤らめていた。
その後、ゆりの小さくて細い人差し指を口元に当てて、金田一へ口止めをしているのが見えた。俺との二人の秘密が無くなったのに、金田一に口止めしているその姿がみて、無性にむしゃくしゃした。
帰り道「何、話してたの」とゆりの手を繋いで歩ている時に聞くと、車道側を歩いている金田一は肩をビクッとさせてた。
「あぁ〜、ちょっと小テストの点数が悪くて誰にも言わないでって話してたの、ねぇ?金田一」
「あぁ〜…、うん。そうそう。花篭が点数悪いって珍しいよな!って」
あからさまに、誤魔化しているのがわかった。
だから「へぇ、何が出来なかったの?」と小テストなんてやってないくせに嘘をついた二人に合わせて、金田一に問いかけた。
「え、あっ!…っ、現国ッ」
「ちょっと、!金田一、現国で小テストなんかやらないから!それ今日の宿題でしょ」
「あ、っ!悪りぃ、そうだった」
二人の間に居るのに堂々と俺を置き去りにしていく。三人で居る時に俺が置き去りなんて前からだったのに今は今までにないくらいムカつく。
そして、もっとムカつくのはゆりがしっかりマネージャーをしている事。
マネージャー業に、真剣で手を抜いたりしないで選手のために、頑張ってくれている姿に惚れていたのに、今ではそのマネージャーさえも煩わしいと思ってしまう。
少し前、部員の一年生が風邪をひいた。
個人の体調管理が悪いせいなのに、ゆりは「夜の電話、やめよ」と用事がある時だけにしょう!スタメンの英が体調崩したら絶対ダメ、ととっても良く出来たマネージャーに俺は、拍手を送りたい。あくまで、マネージャーとしてだけただけど。彼女なら、もっとあるでしょ、なんて言えるわけもない。
金田一の口を破る事も出来ず、俺は気の乗らないまま翌日の朝練をしたせいで、久しぶりにブロックでストレートを閉めきれずワンタッチで抜かれた。
ボールの当りが悪くて突き指をしたので手当てをする間、選手交代をして、コートの外へ出た。
「大丈夫?国見が怪我って珍しいね」
と三年の高柳先輩が、俺の指を触ろうとした瞬間手を引っ込めた。「どうした?」と引っ込めたら手当て出来ないよ?とでも言いたげた顔をしている高柳先輩へ「俺、テーピングの巻き方好みがあるので…」と伝え終わると同時に無意識にスコアブックを記入しているゆりへ視線を向けてしまった。
「ゆりちゃんが、いいの?」
「……中学からやってもらっていたので」
と言い訳をしても「そっか、ゆりちゃんがいいのか」とニヤニヤした高柳先輩には、もう嘘がバレている。
ゆりに声をかけて、体育館の隅っこの壁にもたれかかるように座ると、ゆりは膝をついて俺の前に屈んで手当てを始めた。
「珍しいね、寝不足?」
「そうだね、寝不足。誰かさんたちが俺を仲間外れにするから」
「ふっふふ、仲間外れにはしてないよ?」
と、微笑むゆりを見て、思わず二人でいる時のように「なら、教えて」と少し甘えたのに「はい、巻き終わりました。キツくない?」と良く出来たマネージャーに戻った。
手を開いて、閉じて、を繰り返すとキツくないししっかり固定されている。本当に良く出来たマネージャーでムカつく。「じゃあ、残りも頑張ってね」と立ち上がろうとしたゆりの手首を掴み、力一杯引き寄せたと同時にドンっと大きな音が体育館に響いた。
「今、当たったんじゃねぇ?」
「おい、ホームラン上にマネージャー怪我させてんじゃねぇよ」
俺が、引き寄せなかったらゆりに及川さんのホームランサーブが直撃だった。少し、強引にゆりを引き寄せたのでバランスを崩して、今俺の腕の中にすっぽり収まっている。
「ごめん、強すぎた。大丈夫?」
「……っ、…!」
「え、どうした?ボール当たった?」
ゆりは、俺のシャツの胸元を両手で、掴みゆっくりと顔を上げて「だ、だいじょうぶ、じゃない!」と今にでも零れ落ちそうに潤んだ目と頬と耳を赤く染めているゆりの姿が無性に可愛いくて、ここ数日ムカついていた事なんて全て吹っ飛んだ。
そのまま顔を近づけて、口を塞いでやろうとした時「あぁ〜〜ぁ〜!!ゆりちゃん、大丈夫??」と及川さんが、駆け寄ってきた。
ゆりが、部活中にこんな顔をするなんて、滅多にないからもう少しだけ見ていたかった。まぁ及川さんのホームランのおかげだからしょうがないか…と良く出来たマネージャーがこの後どんな行動をとるか直ぐに分かった。
俺から離れて、及川さんに無事を伝えて、振り返る事なくスコアブックが置いてある場所へ戻るんでしょ?と考えていたのにゆりは、及川さんが目の前に来てもビクともしなかった。
「ゆりちゃん、本当ごめん!大丈夫だった?当たった?ってか、国見ちゃんも大丈夫?」
「俺は平気です」
「え、じゃあゆりちゃんは?大丈夫?」
「一応、引っ張って当たらないようにしたのでゆりにも当たってないと思います」
「本当に?!国見ちゃん、ナイスフォロー!」
「いえ、見事なホームランです」
「ちょっと、国見ちゃんっっ!!」
俺と及川さんが話していても、ゆりは俺の胸元を掴んだまま動かない。
さっき大丈夫じゃないって言ってたけど、やっぱり当たったのか?と「ゆり、立てる?」と聞くと首を横に振った。
「えぇー?!やっぱり、当たった?保健室まで運んでいくよゆりちゃん!」
及川さんがゆりを抱えようとした時に「…ぁ…!」と小さく何かを言った。
俺でさえを聞き取れず「ゆりちゃん、もう一度お願い」と及川さんに言われて、先程よりも、少しだけボリュームをあげた。
「…か、っこ良くて…ビックリした」
と言い終わると胸元を掴んでいる手にまた力が入った。「えー、もうゆりちゃん、及川さんに惚れちゃったの?それは、大丈夫じゃないよね」なんて、笑っている及川さんの言葉を遮るようにゆりが また小さな声で話し始めた。
「…英の、そうゆうところ、本当に心臓に悪いからやめて」
「……ごめん、?」
「んんっ…助けてくれて、ありがとう、英。カッコよかった」
滅多に聞けない、ゆりからの不意討ちに力一杯握っていた手の力に抜けた瞬間、「練習止めてすみませんでした、当たってないので大丈夫です、続けてください」と早口でこの場から逃げるように、スコアブックを置いた場所へ走って戻っていた。
シャツの胸元だけ異様にシワがよっていて、どれだけ力を込めていたんだよって思う反面、ここが体育館でよかったと安堵のため息を零しつつ、頬の緩みを直そうと下を向いた。
ゆりからかっこいいと言われただけなのに表情筋が無くなってしまったのかってほど、顔がだらしなくなっているのが自分でも良くわかる。
早くこの顔の緩みを直さないと…必死に俯いていると、小さくキュッと音を立てて、俺のシューズの爪先にコツッと何がぶつかった。
今は体育館の隅っこで、他のメンバーは告白戦をしているのに…と考えながらゆっくり、視線をあげると事の重大に気付いた。
「…く、国見ちゃん…、いまのは、一体…何かな、?」